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な……んだよ……これ……。
ウソだろ……?
何かの……何か見間違いとかそういうこと……だろ……?
有り得ないよな、こんなこと……。
遠ざかっていく彼女の音声を呆然と見詰めながら、
やっぱり昨日の出来事は現実だったのか、一体自分は何をされたのか、いや、でもまだわからない、信じられない、信じたくない、そうだ、教室でいつも通りのことでもやっていれば、結局いつも通りに彼女が現れて、「だよな、そりゃそうだよな、有り得ないよな、良かった良かったな」、ってなるはずなんだ、
と自分に言い聞かせ、弓道場の方角に背を向けると教室へと走り、平静を装うようにスケッチブックを開きペンを持つが、自分で抑えられないほどに震えるその手では、無理矢理描いてみても子供の落描きのような前衛アートのようなものにしかならなかった。
やがて一人二人と登校し始め、オタク仲間も集い出し、昨晩のアニメの話で盛り上がっているふりをして、
あれ、今日描かねぇの?
あ、あぁ、なんか昨日右手痛めちゃってさ。
なんだよ、ネトゲのやり過ぎか?
などと小突き合いながらどうにか誤魔化していると、
「おはよー」
という彼女の声が聞こえ、はっと顔を上げ彼女の席の方を見た。
引かれた椅子の脚先と床が擦れる音が小さく聞こえたが、その椅子自体、そしてその前にあるべき机さえも、そこには存在していないことに、その時初めて気が付いた。
いや、音もするし声も聞こえるのだから、存在はしているに違いない。
ただ、僕がそれを視覚的に認識することができないのだ、やはり。
頭の中が真っ白になり、凍り付いたように呆然としてしまった僕に、不思議そうな顔をして、
調子悪ぃなら保健室行けよな。
ってか無理して学校なんか来るもんじゃねぇっての。
だよなぁ、ちょっとでも熱がありそうだったら体温計こすって数字上げてでも休むよなぁ。
などと笑いながら友人たちは自分の席へと去って行った。
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