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01 真夜中の学校にて
「やあ勝瑠、今夜は来ないのかと思ったよ」
真夜中の学校で勝瑠を出迎えたのは、少年とも少女ともつかない、小さな人影だった。
「何かあったのかと思って、少し心配しちゃったんだけどな」
「警備員のおっちゃん、中々動いてくれなくてさ」
勝瑠は、咄嗟に釈明する。
「急いだつもりだったんだけど……ごめんなユーリ、待たせちゃって」
「うん、待たされちゃった」
えへへと笑うユーリを見ていると、胸の奥がスッと楽になる気がした。
「でも許すよ。僕は心が広いからね」
「えっと、三〇〇テラバイトぐらいだっけ」
「いや記憶容量の話じゃなくて」
ふたりは言葉のキャッチボールを交わしながら、くすくすと笑い合う。
だからという訳ではないが、そこは野球部の部室だった。ふたりは部室の板敷の隅に並んで座り込む。あっ、と勝瑠は不意に思い出したようにユーリに言った。
「充電しながらでいいよ。練習してる時にバッテリー切れとかシャレにならないから」
「えー、でもちょっと恥ずかしいな」
暗闇の中から、照れくさそうな声がそう告げてくる。
「前も言ったけど、充電してるところあんまり見られたくないんだ」
「俺らにとっての食事風景みたいなモンだから……だっけ」
「はしたなく思わないか? 電気がっついてる姿なんてさ」
「がっついてるかどうかなんて見ても分かんないよ。人間は電気食わないし、気にすんな」
「……そんなに見たいの? 勝瑠のエッチ」
「おい馬鹿やめろ。上目遣いもやめろっ」
「へへん、冗談だよ。じゃあ頂きまーす」
からかうようにペロリと舌を出してみせたあと、ユーリは普段から着ているジャージの裾をめくってヘソのあたりからコードを出し、コンセントに挿入。勝瑠が思わず目を背けていると「どしたの?」と後ろから訊ねられた。
ユーリの両目が薄い青色に発光していた。充電中の合図である。
真夜中の校舎で見ると、何処となく幻想的な雰囲気を醸して良いと思う反面、こんな設計にしたやつを小一時間問い詰めてやりたい気分にもさせられた。
「それで、今夜は何を話そうか?」
ユーリが、やや興奮気味に身を乗り出してきた。
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