04 WATCHING YOU

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04 WATCHING YOU

「お帰りなさい。何処に行ってたの?」  忘れ物を取るため、夜中に一時帰宅すると母が戻ってきていた。リビングでは消したハズのテレビが再度点けられ、テーブルについた母の視線は、そこに釘付けになっていた。こちらを振り向こうとする気配は微塵(みじん)もない。 「ちょっとコンビニ。アイス食いたかったから」 「番組は勿論、観たのよね?」 「……観たよ」  一瞬、間が出来てしまったが何とか流暢に言えた。  早く学校へ戻って、ユーリとのお喋りを再開したくてたまらない。 「ロボットには生産性がない。何故なら子供を作れないから。人間とロボットを分離しないと引きこもり人口が今よりももっと増える。嘘はいつの日か現実を乗っ取ってしまう」  事前にスマホにメモしておいた内容を、淀みなく口にする。道中、万が一に備えてSNSに上がった番組の映像を確認しておいたのだ。心にも思っていないとはいえ、いざ自分の口からそれらを言わせられると、吐きそうな気分になった。 「……おしまい?」 「大体内容は合ってたと思うけど」 「それは前半の方だけの内容よね。後半では、どういう話してた? 最後まで観てたのなら、ちゃんと答えられるわよね?」 「えっと」  内心しまったと思った。そこまで完璧な回答を求められるとは思っていなかった。その日はどうやら機嫌が悪いらしい。勝瑠の知らない部分で、何か不愉快なことがあったのか。 「勝瑠……なんで嘘ついたりするの」 「いや、そういう訳じゃ」 「嘘はッ! いつの日か現実を乗っ取ってしまうのッ!」  不意の爆発に、思わず身を引く勝瑠。母が椅子を立ちこちらに近寄ってきた。 「ロボットが人間に媚びるとッ! 現実の女性がハラスメントされるリスクが高くなるのッ! ロボットを放置すれば文明がやがて堕落するのッ!」 「母さ――」  退避の間もなく髪の毛を掴まれ、勝瑠は叩きつけるように鏡に顔を押し付けられる。勝瑠と共に鏡に映り込んだのは、他ならぬあの具足見貴子の姿だった。 「あんた本当に分かってんのッ!?」 「分かってる、分かってるから、母さんやめてよ」 「分かってないから言ってんでしょッ!」  裏返った叫び声を上げながら、何度も鏡に顔面をぶつけられる。勝瑠は次第に考えることが馬鹿らしくなり、やがて痛みさえも感じなくなっていった。  長引くかな、とだけ頭の片隅でぼんやりと思った。  日本の反ロボット主義者の代表格・具足見貴子。彼女こそが具足勝瑠の母親であり、そして唯一の、ただひとりの人間の家族だった。
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