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02 ニュースピーク
「ロボットには生産性がありません。保護なんてしても無意味なんです、ハッキリ言って」
二十三時からの報道番組『ニュースピーク』の幕開けはそんな一言で始まった。
発言したのはゲストの具足見貴子……周囲のキャスターの大半は苦笑いしていた。
「ロボットは生産性がない……ですか。非常に独特の考え方に思いますが」
「そうですか? 私には自明のことに思えます」
「こちらは、全国でロボットの就労が解禁されてから、ここ十年間のデータになります」
メインキャスターの男性が差し込まれたフリップボードを提示する。
「GDP……つまり国内総生産の数値ですが、十年で右肩上がりになってますね」
「一方これは、過去五年間でロボット社員を導入した企業からの主な声です」
サブキャスターの女性も別のフリップを提示する。
「『辛い時頼りになる』『クレーム対応の不安が減った』『無駄がなくとても効率的』……かなり好意的な評価が目立つように感じますが……?」
「そうですね、とても都合のいい編集をなさってます」
落ち着き払った声で、穏やかな笑顔で具足見貴子は言う。女性キャスターの表情が明らかに一瞬こわばった気がした。
全国の視聴者にも、同じ反応があったかもしれない。
「私の意見は変わりません。ロボットたちに生産性はないのです。例えば彼らは、子供を作ることが出来ません。未来の日本人が全て、ロボットに置き換わって構わないと?」
「ロボットが職場にいることで、人間関係が円滑になった、という意見については?」
女性キャスターはやや早口気味に言った。動揺が垣間見えている。
「それに出産能力の可否で物事の価値が決まってしまうなら、人間はどうなるんですか」
「くふふっ」
見貴子があからさまに鼻で笑った。
公然と侮られたのもあって、女性キャスターの表情が今度こそ本格的に危うくなる。
「人間関係が円滑……ええ表面上はそうかもしれません。しかし生身の人間ではないのです。彼らの理想的な、心地よい言動と接するうち、人間は現実の厳しさと向き合うのを忘れます」
番組を乗っ取るかのごとき見貴子の演説が始まった。
「嘘は、いつの日か現実を乗っ取るのです。そうなる前に区別せねばなりません。今、日本の引きこもり人口は百万人以上と言われていますが、ロボットと人間の分離を遅らせれば、今後更に増加するでしょう。ひいては」
「あー……しかしながら……」
出演陣の大半は、呆れて言葉が出なくなっていた。
殆んど放送事故のレベルだが、こんなのでも一定の需要があるから番組には呼ばれるのだ。国内には未だ、反ロボット感情の強い勢力が多数存在していた。
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