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 貴方の暖かな腕の中。ぎゅっと抱き締められる力強さと全てを包み込む包容力と寄り添う体温。全てが私を満たし、幸福感に包まれている。  貴方の優しい声が私の名前を呼ぶ度に心が震える。耳許で囁く心地良いテノール。聞きなれた優しい声。 ーーあぁ……これは夢だ……  夢だと認識した瞬間に全てが遠ざかる。すぐそばで感じた筈の彼の体温が。声が。幸福感が……。  夢から覚めてしまう。幸福は絶望に塗り替えられ、心が凍える。もっと夢を見ていたい。叶わないと知っていても願ってしまう。 ーーもっと、貴方の腕の中で…… ◇◇◇  目覚ましの音が遠くで鳴っている。 ーーもう、起きないと……  頭で分かっていても瞼が持ち上がらない。 ーーあと、少しだけ……  微睡みの中懐かしい声が聞こえた気がした。いつも聞いていた懐かしい声。私を優しく呼ぶ声。 「……」  目を開けると見慣れた天井が視界に映り、ああ夢だったのかと落胆する。ツーっと目から溢れた涙が一筋滑り落ちる。  あの子がいなくなった。あれから何度季節が巡っただろう。何度季節が巡ってもあの子は戻らない。あの夏、波に浚われ海に消えたあの子は今もまだ波間で暗く冷たい海の中をさ迷っているのだろうか。  夢で出逢うあの子は私を抱き締められるほどに成長している。あの子に会うために私は今日も眠りにつく。あの子の傍に行ける日を夢見てーー……。
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