眼球を仕分ける派遣アルバイトに行った日記

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 昔、登録だけして放置していた派遣アルバイトの紹介サイトのことを思い出した。  私は今、金が無い。三日後行かなければならないビルの清掃バイト先へ向かう交通費すらままならない。折角の休日ではあるが、そのサイトで即給のバイトを探した。  家から電車で一駅、のところをチャリを飛ばして移動。勤務前から息切れ。駅前で待っていると、社名が書かれた銀色のバスが止まる。乗り込む。 「派遣会社から来ました」  運転手に告げ、空いた席に座る。しばらく経って、バスは発車した。  住宅街をグネグネと走り、どこかもわからない坂の上の工場についた。受付で記名し、埃っぽい休憩室の棚に鞄を置いて作業場に入る。  所狭しとダンボールが積まれた部屋、理科室にあるような机、というよりかは台といったほうが正しい、そこにダンボールを運び、中身を傷つけないようにカッターナイフでガムテープを切って開封する。  社員の指示通りに箱詰めされた眼球を、ちょうどスープを食べるときに使う丸っこいスプーンのような器具に乗せ、瞳孔をバーコードリーダーでスキャンし、画面に二十以上が表示されたら右の箱に、二十以下ならば左の箱に移す。(何の数値かは知らない。)それだけの作業だ。  ほんの三十分ほどで膝に違和感が現れる。歩き回ったりする仕事なら良いが、立ちっぱなしというのは中々に辛い。座ってやると何か支障でもあるのだろうか。そもそも、この仕事は機械化できないものなのだろうか。  黒目。右。黒目。右。茶色っぽい。右。青目。左。緑目。右。半壊した眼球。エラー。再度スキャン。エラー。 「すみません。これ、エラーになっちゃうんすけど」 「ああ、そりゃ不良品だね。送り返しとくよ」 「はい、わかりました」  休憩時間。コンビニでも行って昼食を買おうかと考えていたが、付近にコンビニはないらしい。自販機でさして美味くもない缶コーヒーを買って、それでニコチンを流し込む。  午後も同じ作業の繰り返し。ダンボールの底が見えたかと思えば、また新しいダンボールを置かれる。  こんなに大量の眼球が必要とされているのだろうか。雑な管理に見えるが、出荷前に腐ってしまったりしないのだろうか。  右右左、左右右、右左右、左左、右、左。  勤務終了。最初に仕事を教えてくれた社員に封筒に入った給料を渡された。  家に帰って封筒を開けてみると、そこには紙の通貨が七枚。千円、と書かれている。これは、現世の、日本の通貨じゃないか。この地獄では役にも立ちそうにない。とんでもない詐欺業者に引っかかってしまった。まあでも、地獄だから仕方ないか。  やっぱり三日後の交通費は、その辺にいる誰かを殴って奪うことにしよう。
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