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「お酒欲しいよね~」
と後ろから声をかけられ、振り向くと自分よりも背の高い男性にびっくりした。
「う、うん…でも僕はお酒弱いから…ジュースで十分だけど飽きちゃった」
苦笑いする湊音。すると
「隣のジンジャーエールとそのオレンジ混ぜるとおいしいよ。あ、ジンジャーエール多めにね。」
湊音はなるほど~と、言われたとおりにオレンジジュースを少し入れ、多めにジンジャーエールを注いだ。
そして湊音はストローをさして飲んだ。チュウチュウ……
「おいしい~。シュワっとしててさっぱりする。ありがとう」
「いいえ、とんでもない。あ、飲んでいい?」
湊音はストローを抜いて彼に渡した。するとその彼はゴクゴクゴクと飲み干す。
その時、湊音はふと不思議な気持ちになる。なぜだろうか。男の人なのに……その豪快な飲みっぷりにのどぼとけに……見とれてしまう。
「あーっ。おいしくって全部飲んじゃった。ごめん」
「いいよ、また作るから」
その彼に名前を聞かず、彼は席に戻っていった。
「背も高いし、かっこいいから今日一のモテモテだろうなぁ~」
と横からこれまた背の高いくたびれたスーツの男が湊音に声をかけてきた。はぁ、と湊音が生返事をしていると
「お酒無いじゃん?だからあそこの二人とこれ終わったら居酒屋行って飲もうって話になってんだけど。君もどう??」
と提案された。あそこの二人というのは奥のほうで座っている、友達同士でやってきた30ちょいすぎのOLのことだ。化粧は濃いめ、ミニスカートに似たようなテイストの服。聞くと医療事務と看護師の組み合わせらしい。
「でも、お酒は苦手だけど…」
「いんや、お前は数合わせ。せっかく出会った縁だし~仲良くしようぜ~」
初対面の人に「お前」と言われてあまりいい気がしないが、まぁいいかと付き合うことにした。
横目でちらっとさっきの背の高い男が気になる。確かに周りに数人女性がいる。彼は多くの女性に狙われているかのようだと思いながらも、自分はあの中にはいけなかった。
「僕は男だし……。」
そして婚活パーティは終わり、最後に自分のアドレスを気になる女性にスタッフに渡す。
湊音は名前を書かず封筒をスタッフに渡した。
帰り際に自分宛の封筒が渡される。透かして見ると数枚入っていた。その場で見るものもいれば、もう入ってないと分かった人は封筒をその場で置いて帰るものもいた。
「おい、ちびすけ。行くぞ」
お前から「ちびすけ」とあのスーツくたくたな男に呼ばれる。封筒はカバンに入れ、男と女二人で居酒屋に足を運んだ。
気づくとあの背の高い彼はいない。連絡先を入れればよかった。せめて名前でも、と思ったが……。
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