大好物は思い出の味

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大好物は思い出の味

54c79f39-05a3-4a63-9b54-06ba5d19521a 「あの時ね、ストローでチュウチューって吸う湊音が可愛くってさ。もう一発で決めたの。この人だって。  ……はい、いつもの。」 「ありがとう。」  湊音は李仁が作ってくれたノンアルコールの飲み物をストローで吸いながら、出会った頃のことを思い出していた。  出会ったときに飲んだ、オレンジジュースにジンジャーエールを混ぜた、あの時の味。  だがあれから何度か再現しようと李仁は試行錯誤したのだが、湊音は首を縦に振らなかった。あの味にならない。  バーテンを長く勤めている李仁だが、あの当時置いてあったジンジャーエールと同じものでオレンジジュースを割っても再現できなかった。なぜならオレンジジュースがどこのものか分からなかったから。  そして半年かけてようやく再現できたのである。その時には湊音と手を叩いて喜び合った。  お酒の苦手な湊音は、李仁のバーに行くときは必ずこれを飲む。ストロー付きで。 「ヤッパリ可愛い❤️ミナ君。」 「やめろよ、そうジロジロ見ると飲みづらい」 「本当はね、あの時……口移しで飲みたかったけどね。流石に他の人もいたからやめたの。」  初対面からそういうことをできる男である、李仁という男は。 「今、誰もいないよ?お客さん。」  湊音はニヤッと笑う。彼から誘うのは珍しい。 「やだぁ、今私は仕事中よ。」 「冗談だっ……」  湊音の言いかけた言葉に被さるように李仁はカウンター越しにキスをした。 「冗談だって言ったじゃん……」  と言いながらも湊音は顔を赤らめる。 「僕は、あの時……李仁の飲みっぷりに惚れたんだよ。」 「あら、相思相愛だったのね、私たち。」 「だね。」  カランコロン  お客が入ってきた。李仁と湊音は見つめあって笑った。 「危ない危ない……」 「ギリギリセーフね。これバレたらいろいろやばいんだから ……いらっしゃい」  湊音は李仁の接客する姿を横目に思い出の味をチューチューと吸いながら眺める。 「李仁の横顔、素敵だな。」  高校教師として忙しい毎日、ストレスだらけだがこの時ばかりはとても幸せである。そしてそれ以上に2人きりの時間ももっと至福の時間である。
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