0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
『人ごみ』
俺の目の前には、長い黒髪を左右に揺らしながら、ゆっくりと歩く美女がいる。
スタイルは抜群、胸も大きい、それよりも、黒髪が艶やかで綺麗だ。
つい見とれてしまった俺は、ただただその美女の背中を追いかけてしまった。
だが、ここでその美女の赤い鞄から、白い何かが地面に落ちた。
当然俺はそれを拾う、が、うっかりそれに視線を奪われてしまったせいで、美女を見失った。
顔をあげたときにはもう、美女の後ろ姿はない。
俺は、人混みの中で何度も人にぶつかり、あちこちで頭を下げながらも、美女を探す。
「いたっ!」
目立つ赤い鞄を見つけ、俺は走る。
そして、やっとたどり着き、俺は声を掛けながら美女に手を伸ばす。
「落とし物……、あっ……」
慌てて引き留めようとした俺の手は、振り返った美女の胸に。
── バッチーン ──
「何すんのよっ、この変態!」
真っ赤に染めた顔で、美女は俺の頬に豪快なビンタをすると、ズカズカと逃げるように立ち去った。
「……ハンカチを」
呟いた俺の言葉は、風に消えた。
残されたのは、俺の頬にある豪快かつ、痛々しい美女の手形のみだった。
最初のコメントを投稿しよう!