『人ごみ』

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『人ごみ』

俺の目の前には、長い黒髪を左右に揺らしながら、ゆっくりと歩く美女がいる。 スタイルは抜群、胸も大きい、それよりも、黒髪が艶やかで綺麗だ。 つい見とれてしまった俺は、ただただその美女の背中を追いかけてしまった。 だが、ここでその美女の赤い鞄から、白い何かが地面に落ちた。 当然俺はそれを拾う、が、うっかりそれに視線を奪われてしまったせいで、美女を見失った。 顔をあげたときにはもう、美女の後ろ姿はない。 俺は、人混みの中で何度も人にぶつかり、あちこちで頭を下げながらも、美女を探す。 「いたっ!」 目立つ赤い鞄を見つけ、俺は走る。 そして、やっとたどり着き、俺は声を掛けながら美女に手を伸ばす。 「落とし物……、あっ……」 慌てて引き留めようとした俺の手は、振り返った美女の胸に。 ── バッチーン ── 「何すんのよっ、この変態!」 真っ赤に染めた顔で、美女は俺の頬に豪快なビンタをすると、ズカズカと逃げるように立ち去った。 「……ハンカチを」 呟いた俺の言葉は、風に消えた。 残されたのは、俺の頬にある豪快かつ、痛々しい美女の手形のみだった。
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