突然の訪問者

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「しのぶ……」 外からわたしの名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。 最近疲れているから、きっと気のせいだろう。そう思った。 ドアの外で猫の鳴き声が聞こえる。 ここはアパートの3階。どこかの部屋から逃げ出したのだろうか? それともわざわざ階段を上がってきたの? 昨日の台風が嘘のような晴れた9月のある土曜日の午後。わたしは昼ごはんの後片付けをしていた。ワンルームのキッチンで洗い物をしているから、ドアの外の音はよく聞こえる。 鳴き止まない声が気になって、ついついドアを開けてしまった。 そこには白黒の猫がおすまししたようすですわり、わたしを見上げていた。 「やあ、しのぶ。ひさしぶりだね。」 ふたたびそんな声が頭の中にひびき、わたしは驚いて猫を見下ろしているだけだった。
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