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もうすぐクリスマスが近い都心の夜は木枯らしが吹き寒いのにも関わらず、賑わっていた。
歩道は人であふれかえり、80歳を過ぎた老人には一苦労だった。
コートの中に背広をしっかり着こんだ恩田楽太郎(おんだ らくたろう)は杖を突きながら、大事そうに紙袋を抱き、眼光鋭く前を見据えてなんとか歩いていた。
恩田がこんなに大変な思いをしてまでこんな人混みの都心に来たのは、孫へのクリスマスプレゼントの為だった。
ブランドものが欲しいとねだられていて、そんな風でも必要とされることが嬉しかった。
一瞬大きなビル風が吹き、恩田はよろけ、人に当たった。
「す、すみません……」
恩田は弱々しくそう言ったが、当たった人は見向きもしないでスタスタと去っていった。袋の中身が無くなっていて、恩田はため息をついた。
とりあえずまた歩き始めた恩田はすれ違った女性を見て止まった。
「おい、急に止まんなよ、邪魔だな」
そう野次られたが、恩田には聞こえていなかった。
恩田はよりよく見ようと目を細めた。
「やはり、似ている……」
一瞬すれ違った女性はぱっちりとした目が輝いていて、後ろ姿は長い金髪がふわふわ揺れていた。
恩田はその女性を見落とさないように必死についていった。
どれくらい歩いただろうか。たぶんそれほど距離は無かっただろうが、恩田は息を切らしながら、女性が路地に入っていくのを見た。
路地に入ると、居酒屋が何軒が並んでいた。
暖かな光が漏れている一軒に恩田の目が止まった。看板は何もついて無かったが、恩田はその店に入った。
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