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 人混みは嫌いだ。  他人との距離がやたら近くて、触れたくもないのに腕が、肩が、背中が、荷物が、がしがしとぶつかってくる。嫌悪感から身を縮めても、縮めた分向こうから寄ってくるから意味がない。動きづらい。閉塞感に吐き気までする。そもそもなるべく人混みを避けるような生活をしていたのに、なぜ今、自分はこんな大勢にもみくちゃにされながら歩いているのだろう。  いつものシャツにジーンズ、出勤用のリュックじゃなくて、財布もスマホも直にポケットに入ってる。そういう出で立ちでいるってことは、近所のコンビニとか、幼馴染みの家とか、気軽に行けてすぐ帰れるところに行くつもりだったと思う。でも、ここはどこなんだ? 見たことない景色…と言うより、どっちを向いても人、人、人、見渡す限り人の群で、どこを歩いているんだか皆目見当もつかない。流されるように進んではいるものの、どこへ向かっているのか方向すら判らないし、だいたいいつからこうしているのか、目的地があるのかも分からない。  しかも、見知った顔は一つもないし、どの人も無表情で黙々と歩いていて薄気味悪いことこの上ない。なんなんだよ、この状況。帰りたいのに、この人混みから抜けられそうな気がしなかった。  夢にしては、人々にぶつかる感触や、身体を動かした感じがリアルだ。妙に足が重いとか、飛んでいけそうに軽い、なんてこともない。ただ、疲労だけは不思議なほどに感じない。ひたすら、知らない人たちと押し合い圧し合いしているのが気持ち悪いだけだ。
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