白い覚醒

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あれから数時間、紗英ちゃんからの連絡はまだない。あのピースサインの意味を私はずっと考えていた。 (どういう意味だったんだろう?やっぱり思惑通りに骨折できたって事なのかな?だとしたら貴子さんは噂通り人の骨を折るのかな・・・・・) さすがに今日はシーネを家で嵌める気にはならなかった。 テーブルの上では貴子さんに初めて会った時に教えてもらった紅茶が冷め切っていた。甘い香りだけは変わらずに漂っている。 日も暮れかかり温かい紅茶を淹れ直そうと立ち上がった時、不意に玄関のチャイムが鳴った。 訪ねてきたのは紗英ちゃんだった。 急いで玄関のドアを開けると彼女は満面の笑みを浮かべて立っていた。右足には膝下までのギプスが巻いてあって両脇に松葉杖をついている。 「えへへ、来ちゃった。由香ちゃんあがっていい?」 「・・ええ・・あっええ、早く入って」 紗英ちゃんは松葉杖をついて右足を浮かしたまま、器用に片足だけ履いていた靴を脱ぐ。 ダイニングテーブルの椅子に腰かけるとギプスが巻かれた右足は隣の椅子の上にゆっくりとした動作で乗せられた。 一見すると昼間に別れた時と変わらない。が、動作の一つ一つはいつもとは違う重苦しさを感じさせたし、右足を椅子に乗せた時などは本当に痛くて辛そうだった。 よく見ると使っているアルミの松葉杖もいつもの貴子さんの部屋に置いてある綺麗な物ではなく、随分と使い古された感じのするくたびれていて村上整形外科と書いたシールが貼ってある。 ギプスの巻き方もいつもの貴子さん方法と違う。 (まさか、もしかして・・) 貴子さんは膝下のギプスを巻く時にふくらはぎの途中位までの長さにして、両端は下巻のストッキネットを丁寧に折り返し肌色のテーピングで止めている。 今紗英ちゃんの足に巻いてあるギプスは膝下ギリギリまである長さで、両端は下巻き用の青いオルテックスが乱暴に折り返されていた、形も太くて不恰好に見える。 「紗英ちゃん、もしかして・・・それって・・・」 鼓動がドンドン早くなっていくのを感じながら聞いた。 「うん、あたしの足本当に骨折してるの、ギプスもお医者さんで巻いてもらった本物なの!」 あっけらかんと衝撃的な答えを言い放つ。 クリクリとした目はランランと輝いていた。
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