白い覚醒

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一週間後、部屋を訪ねた私を貴子さんは、いつものように笑顔で向かえてくれた。 「いらっしゃい、あら今日は手ぶらなのね」 「ええ、あのシーネはもうボロボロになっちゃったから・・」 何かを察したような、ほんの微かな間の後に話を続ける。 「・・・確かにそうね、早速新しいのを作る?」 「うん・・でも今日はシーネじゃなくてギプスにしてみようかな・・・」 「そう?それじゃあ準備をするからチョッとだけ待ってて」 ギプスを巻く為の準備をするのを私はベッドに座ってジッと目で追う、もうこの部屋では何度も目にした光景だ。 キャスターの付いた小さな台の上に次々と用意されるロール状のキャスト材や青い色をしたオルテックス。 いよいよそれが私の腕に巻かれると思うと、心臓は全力疾走をしたかのような激しさを訴え息苦しささえ覚えた。 「えっと、左腕でいいの?」 「いえ・・今日は右腕にして貰ってもいいですか?」 「いいわよ」 笑顔で頷きながら、手慣れた動作でストッキネットを私の右腕に被せていく。 (ああ、なんだかサイズの合わないジャージみたいな肌触り) 肩から指先が隠れる程の長さにカットするとハサミで切込みを入れ、そこから私の親指を引っ張り出す。 「由香里ちゃん、肘を曲げてくれるかしら」 「はい」 何度も目にしていたので私はその通りにした。 今度はギプスカットをする際の目印とクッションの代わりになる青色のオルテックスを腕に巻きつけていく、指の第二関節辺りから腕の付け根辺りまで巻き終わった所でそれをちぎる。 「ちょっと濡れるわよ」 「はい」 貴子さんは少しだけ手の動きを早めた、水気を絞ったキャスト材を掌の方から肩口まで手際よく巻きつけていく。私の腕は少しづつ重くなる。 肘の辺りは少し厚めに巻いているようだ、キャスト材を全て巻き終わると今度は掌や指を使って手早くギプスの形を整える。 最後に指先と肩口からはみ出しているストッキネットを折り返して擦り付けた。鼓動はますます早くなりその音は部屋中に響くんじゃないかと心配になった。 「乾くまでちょっと手で支えててね」 貴子さんはテキパキと道具を片付けだした。そうしている間にも右腕に巻かれたギプスは乾きながらしっかりと堅く強固な物へ変化する。 「そろそろいいわね」 最後の仕上げに折り返したストッキネットが剥がれない様、肌色のテーピングで巻き止め、重くなった右腕は新しい三角巾で吊ってくれた。 こうして私の右腕は完全に固定され、同時に拘束された。 シーネとは違う完璧な拘束感に私は興奮し、顔を火照らせながらギプスで固定された右腕を擦り続ける。 ザラザラとした感触はますます私の興奮を高めていく。 その強固で真っ白な殻は、力を入れ曲げようとする私のささやかな抵抗など全く問題にしない。 ギプスとはこんなにも私の感情を狂わせる物だったのかと関心さえしてしまう。 私は完全に虜になってしまった。
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