白い覚醒

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マンションを後にすると空はまだ明るかった。直ぐに電車に乗るのをやめてカフェで時間をつぶすことにした。 身体の熱さがまだ納まっていない、いつもは頼まないアイスコーヒーを頼みその冷たさで火照りを押さえる。 (このところ直ぐに身体が火照っちゃうな、自律神経がおかしいのかな?) ここ最近の自分の身体の変化やまだ真新しく真っ白なギプスのことを考えながら、冷えたコーヒーを胃の中に流し込む。 ほどよく時間が経ったところで駅に向った私は、大勢の人にギプス姿を見てもらいたい衝動に駆られ思わず各駅に乗ってしまった。 急行なら20分程の距離が各駅だと倍以上掛かかる。 私は自分の腕のギプスと三角巾に車内の目線が集まっているような気がして再び気持ちが高揚してきた。 ただ実際は特殊な趣味でもない限り他人の怪我など気にしない、まして電車の中では皆スマホの画面に夢中なのだけれど・・・。 それでも私は時折感じる視線に集中し、時間の長さもまるで気にならなかった。 (あっあの人チラッと見た、痛そうに見えるかな、もうちょっと三角巾を捲ってみようかな?) 買ったばかりの玩具を見せたくて堪らない子供のように、私はギプスをアピールした。 地元の駅で降り予定通り裏道を選んで帰宅の途につく。 歩き出して10分ほど経ったところで私は急に尿意をもよおした。 (やばっ水分摂りすぎたかな?) いつもは自宅マンションから駅までは自転車を使っている。 ただ今日はギプスを巻いてもらうつもりで家を出たので、駅までの手段は徒歩だった。 自転車だと10分程の距離でも歩きだと30分は掛かかってしまう、さらに裏道を歩いているので自宅までコンビニもない。 (あん、どうしよう・・) 私は少し足を速めた。冷たい汗を流しながらやっとの事で自宅マンションに着くと急いでエレベーターに向かう、慌てる私はそこで追い討ちをかけられ絶句してしまった。 「嘘・・」 無情にもエレベーターの扉には故障中の張り紙がしてあった。 すでに業者に手配は済んでいるらしく今夜中には直ると張り紙には書かれていたが、今の私はそれどころではない、そのまま急いで階段に向かった。 よりにもよって私の部屋は4階だ。 尿道を締めながら階段を一段一段慎重に上がる、さっきまでの冷や汗はすでに脂汗に変わっていた。 「・・・・ぐ・・う・・・ん・・」 途中何回かこらえ切れなさそうになる度に私は下腹を押さえ立ち止まる。 「・・はあ・・・・・はあ・・・」 もう限界に達していたけど、波のように尿意が一瞬引くタイミングをみてはその度に足を進め何とか自室のある4階まで辿り着いた。 急いでドアを開けようといてあることに気付く。 (かっ鍵が出せない!) 手提げのバッグから中々鍵を取り出せない。 もともと不器用な上に利き手である右腕は直角にギプスで固定され、三角巾で吊られているので全く役に立たない。 「なんで・・なんで・・くっ・・ん・・」 半狂乱になり子供の様に下半身をもじもじさせながら必死で開けようとする。。焦れば焦る程、鍵ははうまく穴に納まってくれない。 カチャッ。 漸く鍵が開いた。汗びっしょりになり気が遠くなりそうになりながら、何とかドアを開け中に入る。 (あっあっ早く、早く) 慌てながらしっかりと結ばれた靴紐を解こうと、しゃがみ込んだ瞬間。 とうとう限界を超えてしまった。
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