白い高揚

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「椎名さん、どうしたの?大丈夫?」 「そんなに掛かるの、不便じゃない」 「痛そう・・・痛いよね?」 「暑いのに大変ね」 職場では同じ課の同僚からの質問攻めにあった。 実のところギプス固定されてからは怪我の痛みは殆んど無かったんだけど、皆の反応が心地良かったので痛くて辛そうな演技をした。 「運が悪ければ3ヶ月位はギプスを嵌めたままらしいの、利き手だし料理とかお風呂とかどうしよう」 皆から同情の眼を向けられ私は完全に有頂天になっていた。 堂々とギプス姿でいられるのも堪らなく嬉しい、勿論そんな気持ちはおくびにも出さず私は辛い演技を続ける。 ただ、いざ業務につくと私は全く戦力外になっていた。 私の右腕は肘が直角のまま親指も使えない、マウスはおろかせいぜいがメモを人差し指と中指で挟む事位しか出来なかったから。 しかも仕事はほぼ100%がパソコンの入力作業なので、何とか1時間ほど頑張ってはみたものの全く仕事にならなかった。 結局、上司と相談しギプスが短くなるまでの2週間は会社を休むことになった。
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