白い高揚

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帰宅の電車の中、私は思いつきでいきつけの美容院の予約状況をWEBで確認してみた。 平日のせいか、丁度いい時間の空きがあったのでボタンをタップする。 「あら!由香里さんどうしたの痛そう」 「ええ、手首を複雑骨折してしまったの、治るまでは半年以上掛かるらしいんです」 美容院での反応も予想通りで、先程と同じ問答を繰り返す。 ただ説明するたびに私の症状は大げさになっていった。 辛そうな表情はもはや演技なのか私にも解らない。 「それでね・・こんな状態じゃ髪を洗うのも不便だし、この際思い切ってショートにして貰おうかと思って」 私はそれだけを説明すると、あとは担当の美容師さんに任せた。 肩甲骨まで伸びたセミロングの髪はリズミカルにカットされていく、ショートにするのはいつ以来だろう?たぶん小学校の低学年以来だったと思う。 (あっそうかショートにしたら紗英ちゃんとお揃いになるんだ) 今さら気付いたけど、それもいいなと思う自分がいる。 「由香里さん、ショートにするならついでに髪色を変えて完全にイメチェンしてみない?」 「う~ん・・・そうしてみようかな」 22年間一度も髪を染めた事などなかったけど、高揚した気持ちは簡単に決断の高い壁を越えた。 片手での会計に戸惑い、美容院を出る前にレジ前の鏡で改めて自分の姿を確認した。 そこにはベーシックなアッシュカラーにワンレンベースのショートカット。三角巾で腕を吊った姿が写っている。 (うん、とっても素敵だわ) この姿を早く紗英ちゃんに見せたいなと思った。
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