白い体験

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私は学生時代から同級生の包帯やギプス姿、街角で松葉杖などを見ると身体の芯からの興奮を覚えていた。 切っ掛けは自分でもわからない。ただ気付いたらそうだったとしか自分でも言いようがない。 想いはどんどん強く大きくなって、見るだけでなく自分でも包帯や松葉杖を経験してみたいという衝動に変わるのに時間は掛からなかった。 その気持ちは年々強烈なものになったけど、文科系で運動とは無縁の生活をしてきた私にはその機会は中々訪れてくれなかった。 高校を卒業すると特に目標もなく、勉強が好きでもなかった私は地元の小さな印刷会社に就職をした。 しかし家から近いというだけで選んだ仕事は何の刺激もなく、つまらない日常の繰り返しで私の心は疲弊し。 そして落ちていった。 社会人になって3年目にして転職を決意。 それを切っ掛けに実家を出て一人暮らしも始めた。 21歳で誰にも縛られない自由を手に入れたのが早いのか遅いのかは分からないけど、とにかく私は社会に出てからも消えなかった怪我への想いを爆発させた。 週末になると厚紙で作った添え木を腕に包帯で固定して三角巾で吊る。そうして偽の怪我人になって町へ繰り出すといった行為に没頭した。 実家にいた頃は親の目が怖くて、カバンに隠してある一本しかない包帯を目立たないように手首に巻く位しかできず、悶々とした想いを心の奥に押し込めるしかなかった。 その想いも転職と同時に離れた県に越したことで解放された。 知り合いの居ない土地で私は大胆になり、1人暮らしから1年以上経った今では偽の怪我人になるのが当たり前のようになっていたのだ。 (ばれちゃった、しかも同じ女性に・・変態と思われているのかな?なんで声を掛けてきたんだろう?なんで?なんで?) 真っ赤な顔で下を向いたままの私を見かねたように、女性は話を続ける。 「う~ん。あなたチョッと不器用みたいね。包帯の巻き方もメチャクチャだし解けかかってるわよ」 隠したい部分を指摘された私は無意識に硬直した体を捻って、女性の視線から左腕を隠した。 (どうしよう・・恥ずかしいよ) 「ねぇ、これから私の家に来ない?そんないい加減な固定や包帯じゃなくて本物のギプスを巻いてあげるわよ」
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