白い解放

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 2週間が過ぎて腕のギプスは予定通り肘までの長さに巻き直され、私は職場に復帰した。 親指は相変わらず固定されているので不自由な事には変わりはないけれど、肘が曲がるようになったので何とかキーボードに手は届く。 左手でのマウス操作も慣れてくると何とかなった。 要領を得るとギプスで固定された右腕でも、数字やエンターキー等色々な操作もこなせるようになる。 更に2週間が経ち不器用な私でも工夫をすれば、ギプスを巻かれた右腕を使って食事をする事も出来るようになった。 骨折の回復は順調だったけど、同時にある問題が浮上してきた。 私は片腕での生活が完全に物足りなくなってしまっていたのだ。 後2週間もすればギプスも外されてしまうかもしれない、平日は働いているし週末には紗英ちゃんと会うのでオムツをあてる事も出来ない。 もっとギプスをしていたい、もっと不自由を味わいたい、もっと同情の眼差しを受けたい。 その思考はどこまでも薄暗く。自ら深い沼に沈み浮かぶことを拒否しているかのようだった。 頭が割れそうなくらい考えぬいた私はとうとうある決意をした。 そして週末の日曜に紗英ちゃんを自宅に招いた。重大な告白をするためだ。 いつも通り談笑しながらも、本題を中々口に出せないもどかしさで気もそぞろになっていると、その異変を紗英ちゃんに気付かれた。 「ねえ、なんか由香ちゃんおかしくない?」 「えっえ、そうかな?」 「そうだよ、なんかソワソワしてるし、ねえ何なの?」 大きな眼を細めいぶかしがる紗英ちゃんをみて私はようやく意を決した。 「ねえ紗英ちゃん・・私もっとギプスを巻いていたい、もっと不自由な思いをしたいと思ってるの」
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