白い破壊

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「これだけ腫れてるとギプスを巻けないから来週までシーネで固定ね」 「はい」 「お風呂は禁止、シャワーも浴びちゃダメだよ。それと絶対安静ね。うちは入院の施設は無いけど大丈夫?面倒を見てくれる人はいるの?暫くは両手が使えなくなるからね 」 「大丈夫・・です。妹と暮らしているので」 私は嘘をついた。 肘に大きなシップを張られギプスを巻くまでは指も動かせないように、シーネは二の腕から指先までの長さになった。 「次は右手ね。本当なら今日外せればいいんだけど、レントゲンを見た時に骨折の状態が悪化してたでしょ。後2週間はこのままだね」 恐らく昨日激痛に耐えるために力を入れ過ぎたのが原因なんだと思う。でもこれは嬉しい誤算だった。 処置が終わって両腕の機能を殺されたのに私の心は辛さを感じない。 いや辛いには辛いと思うけど、これから訪れる不自由な生活への喜びには勝てなかった。 痛みが強かったので座薬を入れられ、それで大分痛みは和らいだ。 「様子を見たいから明日も来てね」 診察室を出ると、ギプスや松葉杖が日常の病院内でも流石に目立つみたいだった。 右前腕にギプスを巻き、左腕はシーネで固定され肩から指が隠れて見えないくらいに包帯を巻かれ三角巾で吊られている。 その姿は誰の目から見ても重症だろう、会計は看護師さんに財布を預けて済ました。 疲れていたけど帰りは徒歩で変えることにした。 両腕が使えないとただ歩くだけでもバランスがとれず私はゆっくりと歩く。すれ違う人達の視線は私の腕に集まった。 その視線は実に気持ちが良く左腕の痛みも薄らぐ気さえした。このまま街に繰り出したい気分にもかられたけど、今の身体の状態では流石に家まで帰るのがやっとだ。 マンションに戻ると部屋の前では紗英ちゃんが松葉杖を一本抱え座って待っていた。 横にはキャスター付きのキャリーバックが置いてあった。 「紗英ちゃん?会社は?」 「今日は休んじゃった。ねえ由香ちゃん、あたし暫く由香ちゃんと一緒に暮らすことに決めたから」  小さく驚く私に反して、紗英ちゃんはいつものようにあっけらかんと答えた。
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