222人が本棚に入れています
本棚に追加
「えっ?」
自分でもちょっと驚くような大きな声を出してしまったので恥ずかしくて顔が熱くなってしまった。女性もクスクスと笑っている。
「安心して、怪しい勧誘とかじゃないのよ。同じ趣味を持つ仲間といえば納得してくれるかな?」
「えっ?同じ?」
再び小さく驚くと、その女性は相変わらずの優しい微笑を浮かべながら歩きだした。
「ついてらっしゃい」
私は素直にその後を追う・・まるで見えない何かに引っ張られるようだった。
互い無言のまま10分ほど歩くと、こじんまりとしたデザイナーズマンションに着いた。
どうやら女性専用のマンションらしい、そのままオートロックを開けエレベーターに乗り込む女性に黙ってついて行く。
女性は最上階の5階のボタンを押した。
エレベーターを降りると意外なほど廊下には奥行きが無かった。
(あれ?結構狭い?)
部屋数は2つ、下の階には5部屋位あったように見えたからチョッと面食らったけど、上に行くほど部屋数が少なくなるデザインになっているっぽい。
女性は手前の部屋のドアを開けた。
「どうぞ」
招き入れられるままに私は入っていく。
(ここに住んでるのかな?)
中に入ると真っ直ぐな廊下。壁も扉も真っ白で清潔感があるよう感じたけど、直ぐに何かしらの違和感を覚えた。
(何だろう?)
その訳は直ぐに分かった、足元を見ると廊下や床は傷だらけだったから。
(傷?こんなに・・なんか怖い)
「こっちよ」
案内されるままに廊下の突き当りの部屋に入っていくと、その違和感はさらに増した。
「こっちにお座りなさい」
「・・・・」
やはり真っ白な内装でかなり広い12畳くらい?フローリングの床はやっぱり傷だらけだ。
生活感のない部屋の中には壁一面のクローゼットと病院にあるようなスチール製の無機質な大きな棚がいくつか並んでいた。
その棚の前に置いてあるベッドは、どう考えても病院の診察用の物に見える。
部屋の広さもあって窮屈な感じはしないけど違和感は拭えなかった。
(何この部屋?どうしよう・・ホントに怖い・)
女性はベッドに座り手でポンポンと叩いて、隣に座るように誘導している。
「自己紹介がまだだったわね、わたしは円城貴子あなたは?」
警戒している私を安心させる為か女性は自己紹介をした。
「・・椎名・・由香里・・です・・・」
(どうしよう・・つい本名を言っちゃった)
私は雰囲気に流されて本名を名乗ってしまったことを少し後悔した。
「よく来てくれたわね由香里ちゃん。えっとまずその包帯をとっちゃおうか」
貴子さんは慣れた手つきで三角巾を外すと私の腕の包帯を解いていく、肘の手前まで巻かれた包帯を解き終わると添え木代わりの厚紙を手に取って微笑む。
「ふ~ん。段ボールを重ねたのね」
他人に自分の部屋を物色されているようで凄く恥ずかしい。
「こんなにきつく巻くから、ほら痕が残っちゃてるじゃないの」
その言葉通り私の左腕にはきつく包帯を巻きつけた跡が痛々しく残っていた。
貴子さんは悲しそうな顔をすると立ち上がり、棚から何かのクリームを取り出してきて私の腕に丁寧に塗りはじめた。
サラッとした肌触りで微かにシップのような匂いがする。
それを丁寧に本当に丁寧に私の腕に塗り広げていく。壊れ物を扱うように優しくゆっくりと、悲しそうな表情は浮かべたままだった。
その顔を見ていると何故か私も悲しくなってきた。
最初のコメントを投稿しよう!