白い光景

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 病院の帰り道すれ違う人々の視線が私に集まる。 若い女性が両腕を大げさなギプスで固定され、まして片腕は三角巾で吊られているのだ、視線が集らないわけがない。 それに加え見た目ではわからないけど、下着代わりにオムツをあてている。 両腕のギプスも自分で望みワザと傷つけ骨折までさせた。どう考えてみても私はもう普通の女性じゃないと思う。 (私・・気持ち悪いな) 自分自身に小さく侮蔑の言葉を吐く。 同時にそう考えるだけで、身震いするほどの興奮に襲われる自分も否定できない。 その場に立ち止まり地の底から這い上がって来るゾクゾクとした感覚に身を任せていると、不意に尿意が襲ってきた。 逡巡のあと立ったままそれを開放した。自分でも驚くほどの勢いでジョワーという音を立てながら尿がオムツ内に溜まっていく。 温かくなっていく股間やお尻の感覚はいともたやすく私を別世界へ誘った。 (あ・・あああんーーんん・・はぁ・・・んあっ・・・---) 初めてする路上の失禁で、かつてないほどの絶頂感に達しその場でうずくまってしまった。 (あ・・あっ・・・凄い・・気持ちいい・・あん・・) 目も虚ろにヒクヒクと身体を振るえさせ、時折感じる道を行き来する人の視線に更に興奮を重ねた。  「お姉ちゃん大丈夫?痛い痛いの?」 「ひぁっ」 突然後ろから聞こえた子供の声が私を現実に引き戻す。 振り返るとそこには小さな子供が立っていた。 少女アニメのTシャツに膝上の短いスカート、カラフルなスニーカーの踵を潰して履いている。 「えっうっうん、大丈夫だよ。痛くない痛くない」 大人が両腕を怪我して路上にしゃがみ込んでいるのだ、相当辛そうに見えたのかも知れない。 小さな子供に心配をされて少し恥ずかしい気持ちになった。 「ありがとう優しいね。もう痛くないよ」 「痛くない?」 「痛くないよー、お名前なんて言うの?」 「みあちゃん」 子供は元気に答えた、幼稚園?小学1年くらいかな? 「みあちゃんか偉いねー」 私はしゃがみ込んだままだったので自然と目線が同じになる。 よく見るとみあちゃんの服はヨレヨレで汚れていた。着ている服にプリントされている魔法使いのキャラクターも最近のものではない、ずっと家で引きこもっていたので今の私はアニメにも詳しい。 このアニメはシリーズ物で私も子供の頃にみていたので動画で観まくっていたのだ。 よく見ると膝には剥がれそうなバンドエイド、肘にも真黒に汚れた包帯が巻いてあって、身体のあちこちには擦り傷や痣もあって痛々しい。 (虐待?) 嫌な考えが頭をよぎった時 「みあーーー」 ほとんど怒鳴り声に近い女性の声がした。 ビクッと肩を震わせたみあちゃんは「バイバイ」といって声の方向に走っていった。 小さな体につけられた傷はまだ短い人生に深く刻まれているようで、あんなに痛々しい怪我は見たことがないなと思った。
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