白い体験

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「それじゃあ用意してくるから、チョッと待っててね」 ほどなく貴子さんは隣の部屋からバケツもって戻ってきた、中にはお湯が入っているらしく僅かに湯気が出ている。 「お湯・・ですか?」 「そうよ」  キョトンとする私を楽しむように、棚を開け箱を取り出す。 箱の下からは銀色の物が出ている、どうやらロール状のシートのような物が入っているようだ。 「由香里ちゃん、もうチョッと袖を捲くってくれるかしら」 「こうですか?」 言われるままにTシャツの袖をさらに捲り上げた。 「うんそう、ちょっと肘を曲げてくれる」 貴子さんは銀色のシートを引き出し私の腕にあてがい長さを測って、指のつけ根から肩の近くまでの長さになった所でそれをカットした。 「由香里ちゃんは初めてだから、取り敢えずシーネにしておくわね」 「?」 何の事だか解らないまま、その動きに吸い寄せられるように目で追う。 貴子さんは薄手の手袋を嵌めると、シートの中から白い布のような物を取り出した。 それを慣れた手つきでクルクルと丸めてお湯に浸す。 水分が浸透しきった所で取り出しギュッとしぼり、ベッドの上に広げてあるタオルで軽く水気を取ると私の腕に再びあてがった。 「由香里ちゃん、肘を直角に曲げてくれるかしら」 「はい」 言われるままに従う。 「そう、そのまま手のひらを下に向けて」 「・・はい」 肘を直角に曲げた私の腕と一緒にその布状の物は包帯で手際よく巻きつけられていく。 腕に巻かれている厚くて丈夫そうな包帯も初めて見るもので、何だかドキドキする。 少しづつ左腕の自由が奪われていく感覚に、身体の奥からウネウネとした衝動がとぐろを巻くように突き上げてきた。 (あん、なにこれ?) 下腹部がジクジクしてどんどん体温が上がっていくのが分かる。 「そのまま腕を動かさないでね」 「・・・・」 私は顔を火照らせたまま黙って自分の左腕を凝視していた。 「少しづつ固まっていくから動かないでね、チョッと熱くなるけど大丈夫だから」 腕を支えながら優しく説明してくれたけど、気もそぞろの私は返事を忘れる。 暫くすると、直角に曲げられた私の左腕は指のつけ根から肩の付近まで完全に固定され動かせなくなった。 貴子さんは私の後ろに回り三角巾で左腕を吊って、余った端を肘のところで丁寧に折り返しピンで留めてくれた。 こうして私はケガ人になった。
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