白い煩慮

4/5
前へ
/52ページ
次へ
 その日は貴子さんのマンションの近くにあるファミレスで紗英ちゃんと早めのランチをとりながら、いつものように話していた。 「由香ちゃんは、いっつもそのシーネだね」 年上の私に気を使ってか、当初紗英ちゃんは私の事を由香里さんとか由香姉とか呼んでいたけど、どうやら由香ちゃんで落ち着いたらしい。 初めてあって以来、紗英ちゃんと私はとても気が合い、時々私のマンションで食事会やお泊り会などもする仲になっている。 とても幼く見える紗英ちゃんが実は一つしか年が違わないとう事実にはかなりの衝撃を受けたけど、同世代ということも2人の仲を加速させる要因なのかなとも思う。 「んっ?そうだね」 紗英ちゃんはいつも足にギプスを巻いている。 右足や左足だったりギプスの長さも膝下や膝上だったりとその度に様々だけど比較的右足がお気に入りらしく、今日も右足に膝下のギプスを巻いている。 でも話していると松葉杖をつくという行為に惹かれているように感じるので、その為の足のギプスなんだろうと私は思っている。 あれから私は貴子さんの部屋に毎週のように訪れ、紗英ちゃんや他のメンバーと色々な話をしていた。 内容の殆んどはギプスや包帯が好きになったキッカケ。今までどうやって楽しんできたかを夜遅くまで話し合ったり、時にはそのまま外へお茶をしに出かけたりして楽しんでいた。 ギプスやシーネは材料費や巻く手間が結構掛かるので、皆は一度ギプスを外すとそれを持ち帰るか、家族に見つかるのが怖いメンバーは貴子さんの部屋で保管してもらう事になっていた。 外したギプスを何度も再利用し楽しむというのが定番だったけど、紗英ちゃんは惜しげもなく一回事に使い捨てにしている。 「由香ちゃんもシーネじゃなくてギプスにすればいいのに、それに利き手が使えない方が不便で楽しそうだよ。この間、樹里(じゅり)さんもそういってたもん」 樹里さんは古参のメンバーで貴子さんと一番仲が良く同世代だとも言っていた。 以前紗英ちゃんが年を聞いた時は30オーバーとだけ教えてくれたので、年齢不詳の貴子さんもその位なのだろう。 とてもスレンダーで背が高く、学生時代にバレーボールで肘の靭帯を痛めた時にギプスにハマってしまったと以前話してくれた。 「う~ん、それも分かるんだけど・・・なんとなくね」 「ほら~興味はあるんじゃん」 「う~ん、そうかもね」 何度も使い回しボロボロになりかけているシーネに包まれた左腕を見ながら私は答えた。 「ほら~そうすればいいのに」 黙って笑い返すと紗英ちゃんはトイレに行くために席を立つ。 松葉杖を使って移動するその後ろ姿は、とても馴れた様子にみえて違和感が全くなかった。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

222人が本棚に入れています
本棚に追加