夢のあと

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夢のあと

  昔の事を、思い出す。  忘れる事なんて出来ない兄弟達の事。  凍える程冷たく、寒かったあの日──── ────*──── 「ママ、どこ?」 「くらいよ、さむいよ」 「ママぁ」  朝まで感じていた温もりを突然失った僕達。ママを求めてただ鳴く事しか出来なかった。 狭くて暗い所に兄弟皆入れられて放り出されたのは外のような場所。 風の音がする、湿った匂いもする。 嗅いだことない匂いもする。  爪を出して引っ掻くけど、まだ爪が小さくてパリパリと乾いた音がするだけで壁はびくともしなくて天井もしっかり閉じられて開かない。薄っすらと外の匂いがわかるだけの僅かな隙間しかない。  沢山鳴いて、泣きつかれて眠る。  お腹が空いた、寒い  寒い…………  *  ママと離れてもう何日経ったか分からない。  真っ暗になる前は、小さな鈴みたいな音があちこちで転がってる。ここは、ママがいつか教えてくれた【公園】というヒトが沢山集まる所なのかもしれない。  あぁ、お腹が空いた。でも、いくら鳴いても仕方ないからもう鳴かない。ヒトは誰も僕達に気が付かない。余計にお腹が空くから眠ろう。  ……それよりも、僕より幼い弟達が弱ってきている、でも、どうしようもない。どうする事も出来ない。僕は、弱いから。  それからまた明るいのと暗い時間を繰り返して今日は、公園に来たヒトの誰かがどうしてか僕達を見つけた。  でも、とても嫌な感じのするヒトだった。全身の毛がぶわわと総毛立つ。  そのヒトは、急に兄弟を持ち上げる。「臭いなお前」「こんな所に置き去りにされてどんな気分?」「何にも出来ないのに生きてる意味あるの?」訳の分からない事を言って箱の中に叩きつけた。  短い声を上げて、兄弟は動かなくなった。  くすくすと笑いながらもう一人も持ち上げて同じようにした。  最後の兄弟は箱の外に叩きつけられて、少しの間「いたい、いたい、ママ」と鳴いていたけど直に声が聞こえなくなった。  僕にもついに手が伸びて来て、ジタバタしたけど掴まれて持ち上げられた。体をよじりながら思いきり噛みついてみたら「いたっ」と言って手を振り払った。振り払われたから箱の中に落ちずに木にぶつかって地面に落ちた。尖った枝に体が引っ搔かれて痛い。  ヒトはそれ以上僕に何かをする事は無く、「お前ももうすぐ死ぬんだね。痛い? 苦しい? アハハ」そう言って笑いながら雨の中をどこかへ駆けて行った。    弱かった雨が次第に強くなってきた。大きな雨粒は降って来る小石のようで叩かれる度に地面にへばる。風が轟々吹き荒れて体が持ち上げられてしまいそう。必死で濡れた地面に爪を立てる。  でも、体があまりにも痛くて次第に目が開けていられなくなった。息を吸うのも苦しくて、体が寒くなっていく。  心の中でママにさよならを言う。きっと、もう会えない。  遠くでバシャバシャと誰かの足音がする。気のせいかもしれないけれど。 音はどんどん近づいて来る。あの嫌なヒトが戻って来たんだろうか、嫌だな、どうしたらいいんだろう、もう噛み付く力なんてないよ。 『誰が、こんな事を……っ』  そのヒトは、いるようだった。声が赤く熱い。  兄弟達が入った物を持ち上げると、僕に気が付いたみたい。  ふわり、体が浮く。 『君は頑張ったんだね、絶対何とかするからお願い逝かないで』  君は誰? 僕に痛い事をする? あぁ、でも……嫌な感じがしないかもしれない。あたたかい……ヒト  それからの記憶は無い。あたたかくて直ぐに眠くなってしまったから。  次に目が覚めた時は目が開けられないくらい眩しい所に居た。ツーンとする臭いが酷い所に居て、そこかしこから大きな鳴き声が聞こえる。 「助けてえ」 「お家帰るぅう」 「ぎゃぁぁあ嫌だぁあ」  思わずぎゅっと体を丸めて尻尾をぴったりくっつける。  僕は恐ろしい場所へ来てしまったのかもしれない…… 「おや、起きたの? ちょっとごめんよ」 『ごめんね、怖いよね。大丈夫大丈夫、すぐ終わるよ』  ひょっこり顔を出したのは知らないヒト。でも、多分僕を抱き上げてくれたヒト。声が一緒だと思う。 やっぱり、嫌な事するのかな、どうしよう噛み付いて逃げようかな。  ゴツゴツとしたヒトの手が僕の体をいっぱいさわってくる。  体がカチコチになってしまう、これじゃあ噛み付けないや。 「よしよし、良い子だね。はい終わり。うーん、外に居た子なんだよね? 栄養失調はあるけどその他病気も無いし、虫も居ない。こんな子初めてかも」  まじまじ僕を見たヒトは頭をわしりと撫でてから体を持ち上げて硬い入れ物に僕を入れた。 『良かった……』 「兄弟達は残念だったね……でも、この子だけでも助けられて良かった。見つけてくれてありがとう」 『私が、もっと早く通っていれば……』 「いやいや、あの日は台風みたいな天気だったからね。君も無事で良かったよ。駆け込んで来た時には大分驚いたけどびしょびしょだったし。あ、それでこの子は飼うで良いのかな?」 『はい! そうします』 「うん、じゃあ色々こっちで準備出来る物を渡すから外で待っててね」 『分かりました、ありがとうございました』  *  それから、お家について僕を硬い物から出してくれた。 『到着~、さぁどうぞ、今日から君のお家だよ。私一人暮らしだから好きにくつろいでね』  びくびくおどおど  恐る恐る、一歩、また一歩  ひとり……ひとりなの? こんな広い所にひとり? 僕が、ここに居てもいいの?  『おやや、探検しないの? お膝に来るのか~可愛いなぁ』  やっぱりあったかい……安心する匂いがする 『よしよし、もう大丈夫。君に痛い事する奴は居ないよ。お仕事お休みもらったから君と暫くいるぞ~! 頼りないかもしれないけど……今日から宜しくね』  良いのかな  良いのかな、僕だけ  兄弟達は皆お空へ行ったのに  良いのかな、僕だけこんなあたたかいところで  このヒトはあたたかい   ー*ー 「今幸せ?」 「僕らはもう大丈夫だよ」 「おにーちゃんまたねぇ」  あぁ、皆いる……でも……ごめんね、僕はまだそっちに行けないよ 「僕らはみんな平気だよ、だからそのヒトと仲良くね」  うん、ありがとう……ありがとう  おやすみ大好きなみんな  おやすみ  またね ー*ー  なんて懐かしい夢を見たんだろう  君と居られて僕は凄く幸せだよ 『うんん、もう食べられない……むにゃ』  もう、あれだけピザ食べたのに夢の中でも食べてるなんて君って本当にくいしん坊なんだから。まぁそんな所も好きだけどね。  君と居られる幸せがずっと続くといいなぁ  僕君とこうしているの大好き  くっついて寝るのもとっても幸せ  君が起きるまで、一緒にもうひと眠りしよう
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