2.快適さとは程遠く

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 吸血鬼は冷たい、という既成概念を(くつがえ)すほど、ブレイズの手は温かくて心地良かったのを覚えている。  ふと昔のことに思いを()せていたら、何となく照れ臭くなった。 「……って今はそんなこと考えてる場合じゃなくて……っ」  ブレイズがあの頃のように気安く触れてくれなくなったことを(なげ)いている最中だったはずだ。  そう思い出すと、ついさっきまでのくすぐったい、温かな照れを(ともな)った心地よさが吹っ飛んでしまった。 「ブレイズの馬鹿……」  はからず、転寝(うたたね)する直前につぶやいたのと同じセリフを口走るパティス。  馬鹿と言ってみたところで、肝心の相手が居ないのでは話にならない。 「そうだ」  とりあえず、さっきから気になっているこの部屋の隙間風(すきまかぜ)を緩和する方法を考えることにしよう。  気持ちが建設的な方向に上向いたパティスは、少し思いを巡らせて、屋敷内に散乱する布ッ切れを集めて回ることにした。  幸い、いたるところに、家財の(ほこり)()けに被せられた布があることを知っている。  きっと数枚拝借してきたところで、元々布が掛かっていない物だって沢山あるんだから問題ないだろう。 「布を窓に張れば少しは違うはずだし」  問題は、どうやってあの窓に手を伸ばすか、だけれど、それはとりあえず、布を集めた後で考えることにしよう。  そう思い至ると、パティスは少しふらつく足取りで寝室を後にした。  背後に、心配そうに付き従うナスターを引き連れて――。
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