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「お散歩行こっか?」
少しふらふらするけれど、大したことはないし、屋敷の中で穴を塞ぐ作業をするよりはそっちのほうが気持ちが上向く気がした。
「窓を塞ぐのなんて、何も今じゃなくても出来るんだし」
ブレイズ抜きで、闇の底のような夜の森を抜けるつもりは毛頭ない。
でも、ちょっと先の開けた野原に出るのくらい、ナスターと一緒なら大丈夫かな?
満月の夜、だだっ広いあそこは月光を独り占めできる絶好のポイントなのだ。
そう思ったパティスは、今来た道を引き返して、自室に戻った。
壁に掛けられた、首輪と同色の真っ赤なリードを取ると、慣れた手つきでナスターに装着する。
愛犬の栗毛色の身体には、深紅の首輪とリードがよく映えた。
この色が、ブレイズの瞳の色――ピジョンブラッド――を意識した色だなんて、口が裂けても言うもんか。
ふとそんな風に強情なことを考えてから、おかしくて思わず笑ってしまう。
そんなパティスを、ナスターがきょとんとした目で見上げてきた。
「私が……思ったことをちゃんと口に出して伝えないからいけないのかも知れないね」
ナスターになら平気で言えてしまう本音が、どうしてブレイズ相手だと言えないんだろう。
「ブレイズが帰ってきたら……寂しいって伝えよう。ちゃんと私を見て?って言ってみよう。もっともっと一緒に居たいって素直に口にしてみる……」
もしかしたら笑われたり、呆れられたりしてしまうかも知れないけれど。
ナスターの真っ直ぐな瞳をじっと見つめて、パティスは独り言のようにそうつぶやいた。
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