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4.不測の事態
秋も深まった今、さすがに春のように原っぱ一面に野イチゴが♪という光景は見られなくなっていた。
「蛇、居ないよね?」
前を歩くナスターについて恐る恐る足を踏み出しながら、パティスがつぶやく。
幸い夜空に浮かんだ満月が、惜しみない月光を降り注がせてくれているので視界は思いのほか開けている。
それでも草が生い茂った野原は、パティスにはちょっぴり怖かった。
十年前、ブレイズに連れられてここを訪れたとき、気をつけて歩かなければ毒蛇がいるぞ、とたしなめられたのを覚えているからだ。
あのときパティスはブレイズが吸血鬼だなんて知らなくて……。
空には今みたいにまん丸なお月様が浮かんでいた。
激情に任せて家出してみたものの、移動費だけで所持金を使い切ってしまったあの日のパティス。
泊まる場所はおろか、食料さえ確保していなかった自分に、ブレイズが食べさせてくれたのがここの野イチゴだったのだ。
「ブレイズの足元に影が出来ていないって気付かされたときはビックリしたっけ」
今宵も、自分の足元には色濃く影が落ちている。
でも、同じ月明かりの下、どこに居るのか分からないブレイズにはないはずだ。
そう思ったら何だか切なくなった。
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