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「ブレイズ……」
自分は吸血鬼なのだ、と明かしたあの日のブレイズは、とても寂しそうな目をしていた。
それを思い出したのだ。
「どこにいるの?」
いつも、何も告げずにふらりと出て行ってしまうブレイズに、パティスは怒りを感じる以上に不安を覚えていた。
遠いあの日、自分は一人ぼっちなのだと悲しい目をしたブレイズは、もう過去の人なのかもしれない。
(ブレイズ、実はどこかにもっと素敵な相手を見つけていて、自分がいなくなっても寂しいなんて思ってくれないんじゃ……?)
ふとそんなことを考えて、パティスは慌ててそれを否定した。
「……そんなはず、ないよね」
不吉な考えに、いつの間にか足が停まっていた。
引き綱の先を握るパティスが動かなくなったことに気付いたナスターが、近付いてきてパティスの手を舐める。
「ナスター」
温もりはなくても、こういう気遣いが堪らなく嬉しい。
「有難う」
ブレイズの使い魔であるナスターは、こんなにも優しい。だからブレイズだって。
ナスターの製作に、半分は自分の手も加わっていることはこの際考えないことにした。
その間も、ずっと気遣わしげに自分のことを見上げ続けていたナスターに、パティスはニコッと微笑んだ。
「心配かけてごめんね」
言って、ナスターの前にしゃがみ込もうとしたら、地面がぐらりと揺れた。
「あ、れ……?」
グルグルと回る世界の中、パティスは草のにおいと、降り注ぐ月光のほのかな明かりが混ざり合うのを感じた――。
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