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十年前のあの日、逃避行の地として、偶然にもブレイズがいるこの町を選んだこと。
そうしてブレイズに出会えたこと。それはパティスにとって一生の宝物だったと思う。
あのとき、パティスがブレイズと共に過ごした期間はほんの一瞬だったけれど、それはパティスが彼に心奪われるには十分過ぎる時間だった。
寂しい目をした、素直じゃない吸血鬼。
その彼の、不器用だけど精一杯の愛情が、パティスにはとても心地よかった。
成長したら必ずブレイズの元へ戻ってくると約束して彼と別れた時点で、パティスは大きくなったら必ずここへ戻ってこようと決意していたのだ。
何年経とうとそれは変わらない思いで――。
だからこそ、約束通りパティスはブレイズのところへ帰ってきたのだ。
ブレイズも、あのときの言葉を忘れずパティスのことを待っていてくれた。
それが凄く嬉しかった。
少女から大人へと成長し、一人のレディへと変貌を遂げた自分ならば、ブレイズの横に立っても大丈夫だと思えた。
もう子供扱いされて頭を撫でられたりからかわれたりすることなく、彼の横にいられる。
十年ぶりに彼の腕に包まれたとき、ブレイズがちょっと戸惑った素振りを見せたことが、パティスにはこの上なく嬉しかった。
普通の恋人同士のようにブレイズと共に過ごしていくこと。
それがパティスにとって、唯一無二の願い。
それなのに――。
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