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3.不安要素
今夜のように晴れた晩、ブレイズはいそいそと出掛けていってしまう。
その行動は、まるでパティスを避けているように思えた。
「何処に行くの?」
問いかけるパティスに、ブレイズは少し困ったような笑みを浮かべて
「ちょっと、な?」
そう返すのが常になっていた。
そのたびにパティスがどんなに不安になるかなんてお構いなしのその態度に、苛立ちと戸惑いが増していく。
燭台の薄明かりに照らされた寂しい廊下を、愛犬ナスターを引き連れてホトホトと歩いていると、思い出したくないのに数時間前ブレイズを送り出した時のやりとりが蘇ってきた。
「ブレイズの鈍感……」
悲しくて思わずそうつぶやくと、背後を歩いていたナスターが指に鼻先を押し付けてきた。
「……?」
その気配に足元を見遣ると、心配そうに顔を覗きこむ愛犬の視線とぶつかった。
「ナスター……」
そういえばブレイズ、出かける際に使い魔であるナスターを伴ったことがない。
それは一人屋敷に取り残されるパティスのことをおもんばかってのことなのか、それとももっと別の意味があるのか、パティスには分からない。
分からないけれど、今こうして自分の様子を伺っているナスターからは不安そうな表情が見てとれた。
「心配かけてごめんね」
思わずしゃがみ込むと、ナスターの頭を撫でてやる。その所作に、嬉しそうに目を細めるナスター。
「……そっか」
そこでパティスは気付いた。
ナスターが一緒ならば屋敷の中にこもっている必要はないのだということに。
ブレイズばかりが出かけているのは何だかズルイ。
自分も、太陽の高い昼間は屋敷の外に出て一人で色々散策しているくせに、そこのところは棚上げしてそんな風に思う。
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