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Prologue
満月の夜。
白一色の世界の中で、彼女は消え入りそうに儚げに見えた。
いつも通りの気まぐれな散歩の途中、たまたま見上げた窓辺に彼女の姿を見付けて足を停めてしまったのも、今思えば運命だったのだろう。
彼女を眼にした瞬間から何故か気になってしまい、いつもなら決して取らないような行動を起こしてしまった。それだって、きっと必然だったのだ。
足音を忍ばせて彼女が見えた窓から室内へと侵入した俺に、数回不思議そうに瞬きをすると、彼女は至極おっとりとした問いかけをした。
「貴方、だぁれ?」
普通なら突然現れた窓からの闖入者に、悲鳴のひとつもあげないだなんて考えられない。ましてや相手は男だ。
けれども彼女にはそんなことよりも俺が誰なのか、のほうが大切だったらしい。
「俺は……」
予想に反した誰何の声にふと言いよどんだけれど、彼女に嘘をつくのはいけないことのように思えた。
「ブレイズ……」
逡巡した後、少し躊躇いがちにそう返すと、「いい名前ね」と微笑みかけられた。
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