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「高遠君?!」
すぐ隣りに立っていた紫澤が俺の異変に気が付き名前を呼ぶ。
その声に我へと帰った俺は、制作発表がとうの昔にお開きとなっており既に会場では撤収作業が始まっていることに気が付く。
「大丈夫ですか?」
ずっと俺が我に帰るまで傍に居てくれた紫澤が心配そうな表情で顔を覗く。
「……今日はお誘い頂きありがとうございました」
不自然すぎる作り笑いを浮かべた俺は、紫澤に軽く会釈して会場を急いで後にしようとする。
だが、会場を出たところで紫澤に手首を掴まれその動きは阻止されてしまう。
「ムリ、しないで下さい。動揺する程の……苦しくなる程の相手を好きになるくらいなら、僕のこと“好き”になればいいじゃないですか。僕だったら高遠君を悲しませるようなことは絶対にしないし、放っておくこともしません。いつだって傍に居ます。僕じゃ、ダメ……ですか?」
珍しく鬼気迫る程真剣な表情の紫澤に俺は何も言えなくなってしまう。
「今度は僕がアイツを牽制する番です」
翔琉と背丈が変わらない紫澤の顔が俺の首筋へと埋められる。
「え?!」
抵抗する間もなく、以前翔琉がキスマークを付けた側とは反対の首筋へとキスマークを素早く残す。
「――さぁ、バイト先のカフェまで送りますよ」
何事も無かったようにすぐ様穏やかな笑みを浮かべ、紫澤は戸惑う俺の手を引きハイヤーを使いカフェまで紳士的に送り届けてくれたのだった。
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