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姫宮華、36歳。 独身。 共演者キラーと呼ばれる魔性の女。 幾つになっても歳を取らない容姿。 年々磨きがかかる妖艶なオーラに、男性ファンの方が圧倒的に多いが、近年では体当たりの演技も評価され女性ファンも少なくない。 白く透き通る肌にダークブラウンの長い艶髪、そして吸い込まれる程の大きな瞳に桜色した弾力ある形の良い唇。 元モデル上がりの翔琉と並ぶと絵に描いたような美男美女カップルだ。 因みに今回のドラマでは、主役の翔琉が華の元カレで海外赴任から戻ってきたエリート同僚役。 もう一方の主役である飛海は、華の婚約中の今カレで翔琉の学生時代の後輩役。 34歳という設定である華は、可愛い今カレがいるにも関わらず昔の男である翔琉との恋を忘れられず二股かけてしまう役柄。 事前の番組宣伝でも知ったが、子どもがいる家庭で観るにはだいぶ刺激的なドラマだ。この時間にしては、公開へこぎ着くまでにかなりテレビ局側が各方面に尽力して実現した作品だろう。 そこまでして成功させたいドラマであることが視聴者側にも伝わってくる。 「あ、紫澤さんだ!」 心織がドラマについて未だ熱く語っていると同じ大学の4年生であり紫澤物産の御曹司、紫澤玲凰(しざわれおん)が1年生のガイダンスがあったこの講義室までわざわざやってきた。 テニスサークルの代表も務めている校内の有名人で爽やか王子様紫澤の登場に、周囲の女子生徒たちはキャアキャア騒ぎ立てる。 「紫澤先輩お久しぶりです」 そう言って俺は軽く会釈する。 紫澤とも海の家以来だ。 珍しくこの夏休み期間、俺のバイト先であるカフェに一度も姿を現さなかった。 「高遠君、赤羽君久しぶりですね。実は、昨日まで北欧に家族旅行へ行ってたんですよ。はい、お土産です」 ドイツ語で書かれた大きなパッケージのお菓子を紫澤はそれぞれに手渡す。 「ありがとうございます……チョコですか?」 熊のイラストが描かれたパッケージをまじまじと見つめる。 「そうです。向こうでは有名なお菓子だそうです。それより2人共、この後はお暇ですか」 相変わらずにこやかな笑顔で紫澤は話し掛けた。 「残念ながら俺、バイトです」 心底悔しそうな表情で心織は答える。 「高遠君はどうですか。今日もこの後すぐにバイトですか」 いつの間にか紫澤は、心織が座っている側とは反対の俺の隣りの席へと座っている。 「俺は夜からバイトです。ガイダンスがどれ程時間かかるか知らなかったので……」 後期授業の年間計画が書かれたシラバスを長机の上でまとめながら俺は答える。 「では、僕とこれからデート……しませんか。夜まで暇ですよね。と言うか、僕の誘いを断る選択肢なんて有り得ないですよね?」 「デート」という言葉に周囲の女子生徒たちが大きくどよめく。 同時に紫澤の整った顔が俺の目の前へと迫り、威圧的なその笑顔に俺は断ることが出来なくなってしまう。 ……どうして、俺の周りの良い男たちはこうも皆強引なんだろうか。 そう溜息を付きながら俺は紫澤の誘いに乗ったのだった。
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