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司会者が滞りなく式次第に進め、4人からの挨拶が終わるとマスコミからの質問タイムへと移った。
数え切れない程の記者やアナウンサーたちがここぞとばかりに手を挙げ質問するチャンスを窺う。そんな様子を、俺と紫澤は一番後ろの立見席で黙って見守っていた。
そんな中、とある有名な芸能レポーターが指名され禁断の質問を口にする。
「そう言えば以前、龍ヶ崎さんと姫宮さんはお付き合いされているという噂がありましたがこのドラマで“復縁”といったことも可能性としてはあるのでしょうか?」
芸能レポーターの質問に俺の胃がキリリと痛む。
“復縁”だって……?!
翔琉と今付き合ってるのは俺だからある訳ない、はずだけど――
もし、俺の知らないところで。
連絡が無い空白の時間に姫宮華と会っていたとしたら……?
否、自分の方が本命だと思っていたら浮気相手だった、というパターンだったとしたら……?
嫌な予感がする。
壇上にある白いクロスが掛かった長テーブルに座る主演3人に視線を向けると、誰1人として顔色を変えること無く余裕の表情を浮かべていた。
すると姫宮がクスリと笑みを浮かべながらマイクを取る。
「可能性、ですか。そう言えば今回頂いたお役のような噂が出たこともありましたね。ここ最近、龍ヶ崎君もハリウッドで活躍する等、俳優としての活躍が目覚ましいので共演がとても楽しみです」
そう言うとすぐ隣りに座っていた翔琉の頬へと軽くキスをする。
「わ!」
思わず俺は声を上げてしまう。
だが、俺の声は掻き消される程に会場から大きなどよめきが沸く。
次いで翔琉が自身の前に置かれたマイクを手に、思わせぶりな雰囲気を醸し出しながら話し始めた。
「姫宮さんのような大女優にそのように仰って頂けて大変光栄ですね。ご期待に添えられるよう、この3ヵ月全力で落としにかかろうと思います」
「ちょっと!何勝手に2人だけの世界を作っているんですか!華さんの今カレは俺ですよぉ?龍ヶ崎さんに華さんは渡しませんから!」
2人だけの意味深な世界を作り上げたこの空間を、飛海はおちゃらけながら番宣の方向へと軌道修正する。ドラマの設定そのままの3人に、マスコミからは思わずクスクスと笑い声が上がった。
あぁ、これが本物の俳優……
3人の演技力に感嘆すると同時に、俺と一緒にいる時には絶対に見せない俳優“龍ヶ崎翔琉”にギュッと心臓を掴まれる思いがした。
あれは全て演技だ。
そう何度も自分に言い聞かせるが、姫宮からのキスとそれを受けた翔琉の自然に口から出たような発言が何度も頭の中にフラッシュバックし、全身から血の気が引くような錯覚へと陥ってしまう。
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