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慌てて絆創膏を手で隠すと、容赦なく翔琉は音を立ててそれを剥がした。
「颯斗……」
眉根を寄せ俺の名前を呼ぶ翔琉は、露わとなったキスマークを見て「がっかりした」と言わんばかりの表情を見せる。
あぁ、これもしかして翔琉からふられて関係が終わってしまう流れなのだろうか。
そう一瞬にして悟った俺は、仲睦まじい昼間の2人の残像が再度頭へとちらつく。
よく考えたら、俺と付き合ったって翔琉にメリットなんて何も無い。
俺だって……今以上翔琉を好きになったら、きっと激しい嫉妬にまみれた重く嫌なヤツになって。聞き分けの良い、素直で真面目な……翔琉が好きになってくれた俺はやがて消えていなくなってしまうだろう。
だからこそ、翔琉と深い仲になる前に。
翔琉に抱かれていない今だったら、まだ……
まだ、引き返せるはず。
俺も翔琉も。
こんなに心が痛い思いをするのも今だけで済むはずだ。
「紫澤先輩と付き合うことにしたんです」
そう思った瞬間、口を付いて出た嘘。
否、これは翔琉を好きだからこそ紡いだ嘘だ。
翔琉のことが好きで。
好きで。
好きすぎて。
こんなにも、人を好きになることが切ないなんて今まで誰も教えてくれなかったんだ。
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