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夜の10時にバイトを終えた俺は、何度確認しても想い人からの痕跡が携帯電話に残っていないことに落胆していた。 勿論、今日もカフェに翔琉は姿を見せていない。 こんなこと、翔琉にドラマや映画の撮影が入れば日常茶飯事だって分かっていたけれど。 昼間、あんな会見を見たせいだな。 酷く鬱屈した気持ちの中、何度も翔琉からの連絡を確認した携帯電話をリュックサックへしまい外に出る。 するとそこにはサングラスを掛けた翔琉が立っていた。 「翔琉!」そう名前を呼び駆け寄ろうとしたが、翔琉の顔を見た瞬間、ふと昼間の2人のやり取りが頭に過ぎり視線を逸らしてしまう。 「お疲れ様。待ってたよ」 俺の胸中を知らない翔琉は、いつも通り声を掛け自転車を車に積もうとする。 「あ、いいんです。今夜は」 「え、何で?」 一切、翔琉に視線を合わせずに俯いたまま俺は言葉と左右に首を降るジェスチャーでその手を阻止した。 「ドラマ、忙しいと思うので」 翔琉が握っていた自転車のハンドルを勢いよく奪い返す。 「……颯斗?」 驚いた表情を翔琉は見せる。 どこにいてもいつも目敏(めざと)く俺を見付ける翔琉が、昼間同じ場所に居たことを気が付いていない事実に胸がぎゅうと強く締め付けられる。 隣りにいた昔の女のことが気になって、俺のことなんて視界にも入らなかった? そりゃあ、いつまでもヤらせてくれない俺なんかより結婚間近だった昔の女とより戻した方が翔琉も買って知ったる仲だしいいよな。 際どいシーンもあるみたいだし、これを機に……なんてこともあるかもしれないな。 「今日の颯斗おかしいぞ。どうして俺の顔を見ようとしないんだ?」 俯いたままの俺の両頬を翔琉は手で挟み、強引にこちらに向かせようとする。 抵抗する俺を前に、突然翔琉の表情が険しくなるのが分かった。 「颯斗、その首……」 厳しい視線が注がれたその先には、紫澤に付けられたキスマークを隠す為に絆創膏が貼ってあることを思い出し青ざめる。
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