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前橋はどこかの倉庫に監禁されていた。あの日、啓二の家を出た後、突如背後から伸びてきた手に何かの薬を注射され、そのまま昏倒して拉致されて、目が覚めるとこの倉庫に監禁されていた。風呂もトイレも水道もあるから死にはしない。ベッドもある。無いのは扉と窓だけで、食料は、部屋に隅にある貨物用の小型エレベーターから定期的に差し入れられていたが、太陽の光が一切差し込まないうえに、時計も携帯電話も奪われていたから、日付も時間も判らなかった。小型エレベーターはとても小さく、恐らくは犬が一匹辛うじて通れるぐらいの大きさしか無かった。
「鳥嶋茜の仕業…なのか?」
何もやることが無い前橋はベッドに横になり、何もない天井を見上げてそう呟いたのだが、女一人で、意識が無い成人男性をここまで運べるのか、と訝しんでいた。
「……」
小型エレベーターのランプがついて、前橋がのそのそと歩いていくと、エレベーターに乗っていたのは、前橋が拉致されてから3日後の新聞だった。
「……!!」
赤ペンで丸がされた記事には、【一級建築士、プールの女子更衣室からカメラを持った状態で発見される】という見出しで、鳥嶋啓二容疑者の写真も載せられていた。
そして、ドアノブは内側から固く溶接されて開かなかったドアが外側から大型の槌で破壊され、前橋は無事保護された。
警察の取調室で、啓二は必死に弁明していた。
「だからおれは、おれが雇った弁護士の指示通りに…」
「君が雇った弁護士とは、彼の事だね?」
刑事は、病院で治療を受けている前橋の写真を見せた。
「そ、そうだ!前橋圭吾、こいつの指示だよ!!」
「おかしいね。彼は、君の家を出た後何者かに拉致されて、使われていない倉庫に監禁されていたから、君にカメラを持ってホテルに来いなんて指示できるわけないのだが」
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