砂の男

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 大学3年生の夏休み。 東京の私大に通うために地元山形から単身上京して早2年半。 特に勉強したいことがあるわけではないが、選択肢を狭めるのが何となく癪であるという理由だけで選んだ経済学に対する興味は早々に失った。友だち付き合いなんてできればしたくないけれど、「一人ぼっちだ」と思われるのが嫌で始めたフットサルサークルは、酒の勢いで退会したLINEグループに誰からも招待が来ないまま、疎遠になってしまった。  今や、すっかり大学には顔を出さなくなっていた。思い返しても早速クソみたいな青春(漢字を充てがうことすら恥ずかしい)を自ら作ってしまったんだと、そう後悔する時間を1分1秒でも減らしたくて、渋谷の放送局で夜勤を始めたのが今年の春だった。夕方の5時に出社して、翌日の朝10時に退社する。夏休みに予定が多くなかなか入りたがらない他の学生バイトからシフトを奪って、僕は今週3回も夜勤に入ることにした。
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