一.香田 かすみが訪れたレトロゲーム店の店主 植木 浩馬

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 植木は二つの袋に詰められたゲームソフトを丁寧に取り出して、机の上に並べていった。持ち込まれたソフトの数を見て、ベテラン店員の多治見くんが別の作業を中断して手伝いに来たが、彼も机の上に並べられたソフトを見るなり、即座に言った。 「これ、さっきの女のお客さんのですか?凄いですねコレ」  だよな、と植木は答える。持ち込まれたソフトのこの内訳はどう見ても尋常ではない。  「レトロゲーム ダンジョン」は有名店なので、ネットでの口コミの評判を見てやってきた、明らかにゲームに興味が無さそうな人が、自宅に残っていた古いゲームソフトを持ち込んでくるという事例はそこそこ多い。  ただ、そういう素人の持ち込みは、保存状態が悪く価値のない「ハズレ」の品ばかりであることがほとんどだ。  ごく稀に、素人の客から希少なソフトが信じられないような良好な保存状態で持ち込まれることも無いわけではない。でも、仮にそういう珍しいラッキーパンチが出る場合も、それは多数のゴミのような持ち込みソフトの中に、珍しいものが一本だけ、その価値を理解されずにひっそりと紛れ込んでいたという形になるのが普通である。  それに対して、今回のこの女性客の持ち込み品は明らかに毛色が違う。価値の高い品、状態の良い品が多すぎる。妙に粒が揃いすぎているのだ。 「うわぁこれ、『ロックマン』の箱付きじゃないですか。状態もいい。それと『ジョイメカファイト』に、箱はないけど『バルーンファイト』か」  こんな店で店員として何年も働いているだけあって、多治見くんも自身が生粋のレトロゲームマニアである。そんな彼がすっかり店員としての責務を忘れて、ただの一人のゲーム愛好家に戻り、持ち込まれた品のラインナップを楽しそうに確認している。  植木だって、ゲーム好きが昂じてこんな店を立ち上げてしまったくらいの筋金入りのレトロゲームフリークだから、もちろんこの素晴らしい品ぞろえには興奮を隠せない。ただ、興奮と同時に、一抹の不安がさっきからずっと彼の頭を離れない。 「――えっ……?ちょっと待ってください店長……これ……」  楽しそうに紙袋からゲームソフトを取り出していた多治見君の顔が、いきなりサッと険しくなった。そして、困ったような顔でおそるおそる、袋の中から一本のゲームソフトを取り出して植木に見せた。 「店長、『バトルフォーミュラ』が入ってます……」  普段はあまり感情を表に出さない植木の口から、「はぁ?」と思わず声が出た。
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