無情なる時の流れ

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無情なる時の流れ

ジョナサン・エルネストは、職員室で、ディスプレイで自分の愛する愛人達の画像を見つめていたのだった。 そう言えば、あの時ーー。 マルガレーテを含めた四人で食事を楽しんでいた。 そうこうしている内に、ジョナサンはタナトスの襲撃を受けたのだった。 レストランは爆煙をあげて吹っ飛んでいた。 「助かった!魔王!マルガレーテはどうした?!臥子?!」 「こちらで確保しております。タナトスでしょうね。壮絶な怒りを放っております」 「まあそうなんだろうな。でもどうやって?何で俺達がここにいると解った?」 「私の所為じゃねえのでぃいす!私のエラルフェイスリフトを探知して追ってきたとかそんなことねえのでぃいす!」 「お前じゃねえか馬鹿神!感じてすぐ来たぞこのマザコンは!」 マザコン呼ばわりされた死の神タナトスは、恐ろしい魔力をみなぎらせていた。 「母ニュクスはお怒りだ。貴様が何かは知らんが、母の怒りを買った時点で、貴様等は等しく滅びるがいい」 タナトスの魔力が増大し、触発された臥待月は、冷めた声で言った。 「敵性神的存在の魔力上昇を確認。脅威判定最高ランク。疑似恒星炉の出力リミット。敵を排除します」 臥待月は一瞬で消え、タナトスは蹴られて吹っ飛んでいった。 「っておい。恒星炉じゃねえか。大丈夫なのか?もうごめんだぞ?お前が燃えるのは」 「ご安心ください。クロノス様より下賜された疑似恒星炉です。どこからもたらされたのかは不明ですがーー!」 臥待月は、膨大な魔力を食らってまともに吹っ飛んでいた。吹っ飛んだ臥待月は、瓦礫を撒き散らして通行人その他を巻き込んでいた。 あーあ。死人が出なきゃいいが。 「よくは解らぬが、神に匹敵する魔力か。構わぬ。我は死の神。諸共消えよ。ーーぐう?!」 その時、何かがタナトスの首を引っ掴んで引きずり込んでいった。 一瞬で、全てが終わっていた。 「何だ?何が起きたんだ?」 「解らねえのでぃいす。もう凄いとかそんなレベルじゃねえ何かがタナトスを引っ張っていったのでぃいす。ありゃあ何の神でぃすかね?」 「知らねえよ。タナトスは帰ってこないな。お前はどうだ臥待月?」 「私は臥子ですが。大丈夫ですか?ーーおや?貴方は」 「何が臥子だ。恒星炉ギラギラさせといて。魔王。あとで説明する。とりあえず、こいつは味方だ」 「最早どうなっているのだ。臥待月が味方だと?私を巡るトラブルは全てなかったことになっているのか」 「そうではありません。正しい時間軸では私はアトレイユ・エリュシダールのメイドにすぎず、貴方を東の大陸で打ち倒した事実は揺らぎません。貴方は戦意を喪失し、村人や、ユノさんを癒していただけでした。それを忘れないでください」 巨大な瓦礫を持ち上げながら、臥待月は平然と言った。 「タイムリーパーを修復して帰ろうぜ。俺はフラさんやユノに会いたい。マルガレーテはどこに行った?」 ジョナサンがマルガレーテを探していると、突然タイムホールが開いていた。 「おい!マルガレーテ!」 ジョナサンの制止を聞かずに、マルガレーテはタイムホールの中に消えた。 「もう完全にぶっ壊れたのでぃいす!迂闊に飛び込むと帰って来れねえのでぃいす!ってああ!入っちまったのでぃいす!陰獣勇者が!」 魔王はジョナサンの後を追ってタイムホールに飛び込んでいった。 次元震が落ち着き、当たり前の王都が戻っていた。ほぼ街の一角は瓦礫に埋もれていたが。 「どうしましょうか?消えてしまいました。時の彼方に」 「私等も戻りたいけど、戻れねえのは困るのでぃいす。とりあえずどこかで対策練るしかねえのでぃいす。エラルカンパニー!」 臥待月とエラルはどこかに消え、瓦礫の下敷きになっていた無関係の男の周りには、多数の人間が群がっていた。 「総帥!総帥!ご無事ですか?!」 「体のほとんどが義肢だ!保存液の漏出を留めて本社にお運びしろ!」 瓦礫の下から助け出された男は、先程の超絶したやりとりを目の当たりにしていた。 「専務。専務、聞こえるか?」 「何でございましょう?!総帥?!」 「一瞬のことで何が何やら解らなかったが、あの女の体についていたあれは、確かに聞こえた。恒星炉と。開発を急がなければ。スタッフを全て集結し、被験体を余すことなく使い、実験を続けなければ。今解った。恒星炉の出力に振り回されない強靭な肉体が必要だ。アルファからオメガまでの実験体に対する投薬を開始しろ。私は見たのだ。あの女から発せられた恒星の光を。私の体などどうでも良い。我が宿願。恒星炉の開発はきっとーー」 うわ言のように呟き、意識を失った男に、群がる社員達は叫び声をあげていた。 「総帥!ゼニスバーグ様!早く!早く救護をせよ!総帥いいいいいいい!」 何とも不条理な時の流れがあった。
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