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米粒の半分程しかないツタの花は葉の裏で、今なお時雨の様に落ち続けていた。花は落ちるだけ落ちて、だがコンクリイトに遮られ庭の肥やしになり損ねている。
…後で子ども達に集めさせて、庭の隅にでも撒けば還れるだろうか。
……
………どこへ?
「ユリ、だいじょうぶか?」
「ラグーン!!お父さんが連れてかれちゃう!!助けて!!」
男子2人が鬼ごっこに飽きた所で、妹分が父親にくっついたまま泣きそうな顔をしている事を気にしだした。黄色い子どもが妹分に尋ねてみると、いよいよ大声で泣き出した。
「ユリ、ユリ、大丈夫だよ。」
城中に響き渡る泣き声で脳がキンキンする、それに耐えながら、ラグーンはユリの頭を撫でてみた。父親の真似をして、そっとそっと。
「ユリが泣いています、どうしてですか?」
「え。…え、えー…」
「返答に毒がない、意識層の変調?」
その一方で、赤い子どもは父親の方に質問してみた。
父親…スツェルニーのクラインとは、少なくともサクリーナ城では有数な毒舌家らしい。曰く、話しかけると3倍になって返ってくる、とか。
それが、常とは違う反応を観測した…とグレンは観測(・・)した。
「ブレーンスキャンが必要でしょうか?」
「結構です、ミーティア関係ですから今見ても“No disorder”ですよ…」
「…ユリとお父さんと壁一面のツタには、関係性、が、ある?」
「まちなさい、今少し“掛けた”でしょう、他の人にはしないで下さい。」
「了解です。
…ラグーン、お父さんを復帰させましたので現場をカチコミましょう。」
「うっし、待ってたぜ!…これでユリが泣き止んでくれたら良いけど」
「まちなさい!!カチコミなんて言葉どこで覚えたのです!?
ソレは俗語です!ユリに聴かせるべき言葉ではありません!!
その人工知能は飾りですか?!人間に勝る存在になりたいのであれば、
ユリが覚えても良い言葉を探して使いなさい!!…宜しいですね?!」
『さ、“サーイエッサー”!!』
子ども達に色んな意味で絞られ、うっかり大声まで出してしまったのでクラインは更に草臥れた。
背中が、脊椎が痛い。
「えっと、車椅子はどうし」
『ここに。』
「現場にはもう誰も居ませんから、視察だけして帰ります…良いですね?」
「おう!」「了解です。」
命じれば瞬足で応じる辺り、人工知能は流石だ。痛みに引っ張られる意識を激励しながら、ユリが涙目になった理由を説明すべくクラインはツタの瀧へと戻った。
ユリはくっついたまま離れなかったので、そのまま車椅子に乗せて抱っこだ。
「わあ…」
「これ、綺麗な音がするぜ?!これなーに?」
「コレが件のツタですよ。
…帝国謹製汎用通信機(オホン)では、近寄らないと映りませんか。」
明日にはもう実り支度を始めるだろうツタの瀧を撮影しながら、クラインは上官に電話した。どうせ説明するなら上官…母親も居た方が良い。
《リアルタイム視聴中だがどうかしたか?》
「おはようございます。あの、何処まで把握されて」
《聞こえるも何も今ユリに“グッジョブ!”と言う所だった。》
「白昼から盗撮しないで下さい…」
《監視と言え。》
通信部長官シダーは、今日も帝国ネットワーク経由で盗撮
《監視と言え。》
に励んでいるらしい。リアルタイムで返信された。
よく見れば城壁の更に上、屋根の縁に鳥が留まっている。
帝国最新技術で作られた銀色の鳥は、一枚一枚個別に作られた羽根パーツを嘴で軽く擦り付ける。要は毛繕いだが、少し動作が違う様な氣がするのは氣のせいだろうか。これは後で機構課に送信するとして…遠目で見れば、鴉か鳶か土鳩かや…思い思いの生きた鳥に見えるだろう。
セシリアと名付けられた機械鳥は今日も順調に稼働している。
それだけ分かれば、十分だ。
《それで、どうしたい?》
「…セシリアのカメラにサイレネスは映りますか?」
《稀にだが、今回は映った。》
「では、場所は其方で分かりますね。
庭の隅を氣にしていらしたので、掘るべきかと。」
《そうだな、管理課に許可を取ってくる。》
「承知致しました。」
クラインは一旦通信を切り、帰り支度を始めた。
あれからユリは父親に抱きついたまま全く下りようとしないので、ピクニックはこれでおしまいだ。車椅子に荷物を積み、グレンとラグーンに押させる事にした所で通信が入った。
《例の件だが、明日管理部が掘る事になった。
どうしても現場が見たいならセシリア経由で見ろ。》
「承知致しました。」
「ユリもほるー!」
「オレも掘るー!」
《すまない、今回は御近所優先だからダメだ。》
「ふにー…」「えー。」
《それよりも当日、3人でクラインが連れていかれない様に見張れ。
掘って地下水でも出てきてみろ、このお父さんたら先の様にマージーでー
引き込まれてどうにもならん可能性が高く、映像越しでも油断できん。
だいしゅきホールドしても構わん。警戒を怠るな。》
「おう!」「了解です。」
「うん、あたしがんばる!」
「頑張る方向性が違う様な氣もしますけど…い、良いんですよね?」
《ミーティアにお前は渡さん。》
そういう訳で、クラインとその子ども達は、部屋でお弁当を食べて今日を終えた。
ユリのお弁当はもちろん美味しかった。ちなみに、今日のおかずは豚肉…ではなく大豆ミートの生姜焼き、コロコロ野菜のカレー炒め、きんぴらごぼうだった。
《俺は、人間であるお前を尊重しようと思っている。》
ラグーンは食器の片付け、グレンはティーパックの紅茶抽出が出来る様になった事には驚いた。
《人間を辞めたくなったら俺に一言言ってから辞めろ。以上だ。》
「…ありがとうございます…」
だが一番ココロに沁るのは、あの方の声。
《全く、揃いも揃って帝国民とは大きな子どもばかりだな。》
「子どもだなんて言わないで下さい、
此方は10歳年上に追いつこうと必死なんですから…」
《そうか、ならばかかって来い。今なら魔法は使わないでおいてやる。》
「それは御勘弁を…」
「なんだ、意気地の無い。」
「部屋まで来たついでに煽ってもダメですよ、子どもはもう寝る時間です。」
「…軽い運動をすると眠れると聞いたが、どうだ?」
「それなら付き合いますよ。…別にソファで構いませんよね?」
子ども達が寝静まった後、クラインは上官と心ゆくまで通信してようやく寝付ける様になったのだとか。
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