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「いやぁぁぁぁぁぁっ!」  会場内に悲鳴が響いた。  見るとリングを見せられた飯野杏子が、しゃがみこみ頭を抱えて発狂している。その脇で、冷めた視線を杏子に向けているのは香澄だった。 「はてさて・・・どうしたものでしょう」  目の前で発狂する杏子を見ても一切動じることなく久遠警部は首を傾げた。 「杏子さんはなぜこんなにも怯えるのでしょうか?」  そう言って庄吾と香澄に視線を向けた。 「お母様のだからよ」  腕を組んだまま香澄が言い放った。 「もしかしたらお母様の祟りなんじゃないの?」 「やめないか!香澄!」  声を荒げた庄吾の顔色が、みるみる間に青くなっていくのが遠目にもわかる。 「これはなにか、ありそうですねぇ」  そう言って琉は、久遠警部の背後に回る。志童もそっとそれに付き従った。 「だってそうじゃない。お父様はお母様が死んですぐにこの人を連れて来たわ。お母様は怒っていらっしゃるのよ。でなきゃ死体のそばにお母様のリングが落ちているはずがないわ」 「バカなことをいうんじゃないっ!死人が殺人などするものか!」  握った拳をわなわなと震わせる庄吾に、久遠警部は冷静に相槌を打った。 「確かに。死人は殺人を犯しません。ですが・・・・・・」  そう言ってまた背中で両手を組むと、天井を仰ぎ見た。  そして視線を庄吾に戻すとにこりと笑う。 「どうやら杏子さんがここまで怯えるところを見ると、こういうことがあるのは今日が初めてではなさそうですね。少しお話を伺えますか?別室で結構ですので」  遠巻きに様子を見ていた招待客が騒めき始める。 「いったいいつまで俺達を拘束するんだ」 「まさか私たちの中に犯人がいるとでも?」 「こんな不当な扱いは許されないぞ!解放しろ」 「弁護士を呼ぶぞ!」  久遠警部は招待客達を一瞥したあとで、小さくため息をついた。そしてとなりにいた警察官に「身元確認が終わったら皆さんにはお帰り頂いて結構ですよ。あぁ、一応海外旅行などは控えるように伝えておいてくださいね」と告げた後で、「あぁそうだ」とまるで今思いついたかのように振り返った。 「庵野雲志童さん、琉さん、お二人にはぜひ一緒に彼らの話を聞いていただきたいのですが」 「え?俺達?」 「えぇ、まぁ貴方方への取り調べではないのであくまでお願いですが・・・」 ___あ・・・いや、でもなんで俺達?  訳が分からずぽかんとしている志童に琉が小声で言う。 「志童様、もしよろしければ彼のお誘いをお受けしませんか?」 「えっ?」 「私も少しばかり気になるのです・・・・この結界を張ったのが一体誰なのか・・・・」 「あ、あぁ・・・そうだよな・・・まぁそういうことであれば・・・」 「ご協力感謝します。ではこちらへ」  涼やかな顔でそう言った久遠警部は、まるで最初から志童と琉が断らないことを知っているかのようだった。
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