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「ここにいる私たち以外の人ならざる者・・・・。おそらく殺人はそいつの仕業でしょう・・・・」 「えぇっ」  当たり前のように頷く琉に、俺は驚きを隠せない。 「えっ、えっ、それじゃぁ・・・・まさか妖を逮捕・・?」  そう言った志童に、久遠警部はひと際冷たい視線を浴びせる。 「琉さん、貴方の主はこの世に生を受けた時、脳みそを忘れて生まれてきたのでしょうか?」 「いえ。志童様は、その分仲間思いのお優しい方なのですよ」 ___いや・・・琉、その分ってなんだ?なぜ脳みそ忘れたってところを否定しないんだ・・・ 「じゃぁ、誰なんだよ!その妖ってのは!」  志童は口を尖らせてふたりに向かって言うと、琉と久遠刑事は顔を見合わせた。 「被害者の惨状から見て、思い当たる妖がいます」 「えぇ、実は私もですよ、琉さん。あいつが絡んでるとなると・・・この家を徘徊する希世乃さんのことも説明がつく」 「えぇ、そうでしょうね」  二人は既に事件の真相にたどり着いているのだろうが、志童は相変わらずさっぱりだった。 「で? どうすんだよ!まさか、妖怪の仕業でした!なんて言えねぇんだろ?」 「えぇ、もちろんです。ですが・・・・利用しているつもりが逆に利用されてた・・・まぁミイラ取りがミイラになる・・・なんてことは現世では常のことですから」 「ミイラ取りがミイラ?」  志童は首を傾げた。 「志童様、つまりその妖の手助けをしたものがいると言うことです。手を貸し利用しているつもりが、いつの間にか利用されていた・・・とまぁ、そういうことを久遠警部は仰っているのですよ」 「えっ、なんだよそれっ!昨日の友は今日の敵・・・ってかぁ?ぁあーっちっともわかんねぇ!なんで二人そろって回りくどい言い方しかしねぇんだ!」  久遠警部が不敵に笑う。 「まぁいまにわかりますよ。そもそも妖には知能を持たない低級な者も多い。妖がみんな琉さんの様に切れ者であることはないのですよ。そうした者達は自らの本質に正直です。が、しかしその正直さは時に理不尽にも見える。まぁ、そういうことです。志童さん、それ以上考えると知恵熱でますよ」 「知恵熱ってっ!さっきから聞いてりゃ好き勝手いいやがって!」 「おっと失礼。気を付けてはいるのですがついつい本音が零れてしまいましたか」 ___零れたってか、全般的にお前の発言はそうだろうが! 「なぁ!その妖はどうすんだよ!」 「さて・・・どうしましょうかねぇ」 「はぁ?だってこんな事件起こしてるのに、野放しかよ」 「そうは言っておりません。志童さん、我々は警察ですよ。警察はこの国の法律に則って動いているのです。この国のどこに妖を裁く法律がありますか」 「ぅううっ」  志童は返す言葉もなく喉の奥で唸った。  確かにそうなのだ。妖を裁く法律も、捕らえる機関も存在しないのだ。 「とはいえ・・・我々にもそれなりの準備はあるということです」  久遠警部の言うことは相変わらず要領を得なかった。  「志童様、お辛いでしょうがここは久遠警部の仰ることも一理あります。妖と一言に申しましても、人に害なす者、人を喰らう者、言葉を持たぬ者など様々なのです。人間の価値観や感情では到底推し量れるものではございません」 「わかってる・・・・わかってるけど・・・・」  やりきれない思いを堪えぐっと拳を握る志童を、琉は痛ましげに見ていた。
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