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 屋敷に戻ると、鑑識官たちは一通りの仕事を終えたのか撤収の準備をしていた。 ___妖怪がしたことなら、証拠なんて出てくるはずないのに・・・  志童は、被害者のために必死に手掛かりを探す鑑識官たちが気の毒に見えた。と、その時。  久遠警部と一緒に来ていたもうひとりの刑事がどこからともなく現れた。 「久遠警部、害者の身元が割れましたえ」 「そう。で、どこのどちらさんだった?」 「梅澤加絵、38歳、外資系のインテリア家具会社に勤めとるようどす」 「家具?」 「えぇ・・・それなんですわぁ、警部がお察しの通り」  刑事は志童と琉をちらりと見る。 「あぁ、こちらは私の友人だよ。彼らはこういう事件の謎解きが得意でね。彼等なら大丈夫だ」 ___俺は友達になったつもりはねえけどなっ!  剥れる志童を見て琉はクスリと笑った。 「それは失礼おました」  刑事は志童と琉に頭を下げた。 「あっ、いえ・・・お気になさらず・・・・」 「僕は久遠警部の部下で、祇園寺相馬(ぎおんじそうま)いいます」  そう言って祇園寺は琉顔負けの折り目正しい礼をした。スーツを着ているのに、まるで和服を着ているかのような身のこなしだ。かるくウェーブのかかったすこし長い髪はいかにも柔らかそうで、前髪を後頭部で軽く束ねている。  まだ少しあどけなさを残すその顔は、彼が話す京ことばのせいか艶やかで中性的だった。 「あっと、俺は庵野雲志童、それからこっちは琉だ。よろしくな」 「どうぞ、よろしゅう」 「で?祇園寺君。話の続きは?」  挨拶などまるで興味がないと言いたげに、久遠警部が言うと祇園寺は手帳を開いた。 「久遠時警部、えらいせわしないなぁ。害者の梅澤どすが・・・飯野庄吾と密接な関係やったようどす」 「密接?それは、愛人ということでいいの?」 「えぇ、そない感じですわ・・・。ただ、梅澤にも婚約者がおます。交際は順調だったようどすが・・・」 ___おいおい、まじかよ!あのおっさん・・・・いかにも愛妻家ってかんじだったじゃねぇか!しかも、嫁が死んですぐに20歳以上も離れた杏子さんと結婚した上に、愛人って・・・・・  志童は言葉もなく、呆れていた。  そんな志童を久遠警部はちらりと一瞥して、ふふっと笑う。 「志童さん、こんな話はね全然珍しくありませんよ。人間なんて人皮剝けばみんな化け物ですよ」 「えっ・・・・・、いや、俺は別に・・・・」 「さて、飯野家の皆さんのところに向かいましょう。そろそろ、この馬鹿げた茶番を終わらせなければなりません」  志童に返事をすることなく、久遠警部はくるりと向きを変えパーティー会場であったホールを出ていく。祇園寺刑事は優雅な足取りで久遠警部の後を追った。 「琉・・・俺、あの久遠って奴、苦手かも・・・」  ぼそりと言った志童に琉はにこやかな笑みで返す。 「しかし、あちらは志童様のこと、なかなかお好きみたいですよ?」 「はぁ?それを言うなら琉だろ?俺、あいつの言葉がナイフにしか見えねぇ」 「確かに・・・少々くえないお方ではありますね。しかし、悪い方ではないようですよ」 「まぁなぁ・・・刑事やってるくらいだから、悪人ではないんだろうけど・・・」  話ながら、志童と琉も久遠警部の後を追って飯野家の待つ部屋へと戻ってきた。  庄吾の隣に杏子が座り、ひとつ席を開けて香澄が座っている。  香澄と両親の間に会話はなかった。
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