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「さて、お待たせをいたしました」  久遠警部がパンと手を打った。 「大体の目星はつきました。あぁ、それから杏子さん、まずは貴方を怯えさせている謎解きでもしましょうか」 「えっ・・・・」  うつむいてた杏子が顔を上げた。 「わかったんですか・・・・」 「えぇ。簡単でしたよ。ねぇ琉さん」  琉は無言で笑みだけ返した。 「あっ、そうだ。せっかくですからここはひとつ、琉さんに謎解きをお願いするとしましょうか」 「は?なんで琉が・・・・それは警察の仕事だろ?」  そう言った志童に久遠は表情ひとつ変えずに答える。 「えぇ。ですが、私は友人である君たちの腕を見込んで現場に立ち会わせました。それがただの見学となると、上にも報告が難しいのですよ。ですから、お願いします。探偵さん」 「は?たっ探偵?」  目をぱちくりする志童の隣で、琉が小声で告げた。 「大丈夫です。志童様。お任せください」 「へ?あぁ・・・・・・じゃぁ・・・まぁ・・・・」  一体何がどうなったらこうなるのかと、難しい顔をしている志童の隣で、琉が一歩前へ出ると折り目正しく頭を下げた。 「では、僭越ながら庵野雲志童様の秘書兼執事である私から杏子様を脅かしている事象の件につきましてご説明させていただきます」  杏子と庄吾がごくりと喉を鳴らした。  香澄はまるで興味がないとでもいうように、腕を組んで窓の外を見ている。 「まず、杏子さんが聞いたという声ですが__________」  一同の視線が琉に集中した。 「これは、ある人物によって仕掛けられたものです。実際、杏子さんの部屋の隣・・・・つまり、希世乃さんの部屋の壁紙がすべて張り替えられていました」 「えっ・・・・まさか、そんな・・・いつの間に・・・」  庄吾が驚きの声を上げた。 「えぇ、張り替えられていたといっても恐らく元の同じ壁紙でしょう。それも部屋全体。一面だけが張り替えられたのなら、微妙な壁紙の劣化などで気づくこともできるでしょうが・・・・いえ、むしろそれを防ぐために、部屋全体をとりかえたのでしょう」 「でもっ、何のために・・・・あの部屋は今は誰も・・・・」  胸の前で両手を握りしめた杏子が言った。 「それは、杏子さんの部屋と希世乃さんの部屋の間にある吸音材を取り除くためです」 「吸音材・・・・」 「そうです。今、希世乃さんの部屋と杏子さんの部屋を仕切るものは板だけ・・・と言うことになります。言うなれば、昭和のボロアパート並みの音漏れがするということです」  庄吾も杏子も言葉を失ったまま、じっと琉を見ている。 「そして、希世乃さんの部屋に置かれたライディングビューロー式の机。これは杏子さんの部屋を背に設置されています。  犯人はこの中で希世乃さんの声を響かせたのでしょう。うまい具合に机の中での大音量はくぐもった声となり、それを隣の部屋で聞けば尚更です。これが、深夜に杏子さんに聞こえていた希世乃さんの声のトリックということになるでしょうね」 「でっでもっ、希世乃さんは、『杏子・・・死ね・・・許さない・・・夫を・・家族を返せ』って、そう言ったんですよ?そんな都合よく希世乃さんの声が残っているとは・・・・・」 「えぇ。もちろん、そんなものは残っていません。その声は最近録音されたものなんですよ。ねぇ、香澄さん」 「っ!」  琉の言葉に息を飲んだのは庄吾だった。 「香澄・・・まさか、お前・・・・・」  香澄は相変わらず腕を組み、窓の外を眺めている。 「親子で、しかも同性であれば声が似ているのは珍しいことではありません。よく、母と娘が電話で間違えられるなんていう話もそう珍しくはないでしょうからね」  その時だった。 『・・・・ぅううう・・・・ぅうう・・・・えせ・・・・かぇ・・せ・・・憎ぃ・・・・杏子憎ぃ・・・・夫を奪った・・・杏子が・・・憎い・・・許すまじ・・・許すまじ・・・・・』 「ぃややややぁぁぁぁぁっ!」  部屋に響いた希世乃の声に杏子が発狂した。  庄吾も杏子を抱えながらも、その顔は青ざめている。 「あっ、堪忍、堪忍。今流したの僕どす」  祇園寺刑事がにこやかな笑みで、手にノートパソコンを開いていた。 「鑑識が音源発見しおったんどすわぁ」  後ろ頭をかきながら笑っている。  志童は大きなため息をついた。 「なんて人騒がせな・・・・」 ___流石、久遠警部の部下だよな・・・癖ありまくり・・・・  というのは、あえて声にださなかった。
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