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「杏子さん、貴方が聞いた希世乃さんの声は今のではありませんか?」 「え・・・えぇ・・・そうです」 「そして祇園寺刑事、その音源は香澄さんの部屋から発見された・・・ということで、間違いないですね?」 「そうどす」  そう言って祇園寺刑事はパソコンから取り出したCD-Rを見せた。 「CD-Rに焼かれているもので、かなりエコーが強い。大方、カラオケボックスででも録音したのでしょう。いかがですか?香澄さん」  琉の問いかけに香澄は腕を組んだまま、横目で琉を睨みつけると鼻で笑った。まるでこの場にいる全員が敵と言わんばかりの形相だった。  「だからなに?で?私を逮捕する?できないわよねぇ?だって、私はそれを流しただけですもの。それに、杏子さんが見たっていうお母様はどうなるの?そんなの、私は知らないわ!」 「えぇ、そうでしょうね。今の時点では、声の犯人が香澄さんとわかれば十分です。なぜならこの事件全体にはもう一人関わっているからです。仮にそのもう一人をAとしましょう。Aは、飯野家のこの現状を見事に利用しました。方や香澄さんがリラックス効果があると言って杏子さんに飲ませたドリンクですが、あれには気持ちを高揚させ更に幻覚をみせる作用があったのですよ。つまり、完全合法ドラッグといったところでしょうか」 「合法ドラッグ?まさか・・・・でも、香澄はそんなものをどこで・・・」  そう言った庄吾の唇はにわかに震えていた。 「難しいものではありません。香澄さんの部屋にあるキッチン。先ほど拝見させて頂きましたが、アカシア根皮の粉末がありました。ここにクエン酸を入れて煮だすことでアルカロイドが溶けます。まぁこのままでは到底人が飲むには辛いので、ジンジャーとシナモンで味を調えるのですがこの時点で恐らく液体の色は、まさに滴る血の如き真っ赤に染まります。まさに地獄を髣髴とさせるわけですが・・・実際このまま飲めば、飲んだものは激しい下痢に襲われますからあながち見かけ倒しでもないのかもしれません。これに豚皮ゼラチンを入れてミキサーにかければ、不要なガラがコラージュされますのでこれで下痢を防ぐことができます。あとは上澄みの湯を珈琲のフィルターにでも通せば、オレンジ色の合法ドラッグ幻覚茶の出来上がりというわけです。まぁ、ここまでしても決して美味しくはないでしょうが、ここがドラッグなる由縁です。飲んだ後の高揚感が忘れられず、次も出されればまた飲んでしまう。そうやって、杏子さんは毎回香澄さんに出されるままに幻覚作用のあるドリンクを摂取した結果、深夜の希世乃さんの声の効果も相まって、幻覚を見ることとなったのでしょう。しかし残念ながら、全てが幻覚だったわけではありません。最初の数回はAが庭を実際に徘徊していたものと思われます。私からは以上です。ここからはAがからむこと故、警察の方が適切かと_____」  琉が言い終えると、久遠警部は満足そうに頷いた。 「いや、素晴らしい!流石です。期待以上ですよ!ということですが香澄さん、合法ドラッグについても間違いないですね?」 「あくまで合法よ!私は法を犯していないわ!」  香澄の言葉に、庄吾も杏子も信じられないと言った様子で香澄を見ている。 「えぇ、確かにその通りです。いえ、念の為の確認ですよ。さて、問題のAですが、その前に先ほど、被害者の身元が明らかになりました。梅澤梅澤加絵、38歳、外資系のインテリア家具会社に勤めていました」  久遠警部がその名を口にした瞬間、これまでも十分青い顔をしていた庄吾の顔から血の気が引いた。もはや死人のようである。
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