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志童と琉が飯野家を後にしようと玄関を開けた時だった。
「琉さん」
背後から久遠警部が呼び止めた。
「琉さんほど優秀な方はそういないでしょう。今の職場が嫌になったら、いつでも私のところに来てください。お待ちしております」
琉はゆっくりと振り返った。
「せっかくのお申し出ですが、私の主は志童様の他にいないと思っております。私があなたのところへ行くことはないでしょう」
「そう。それは残念。だけど、心変わりはあるかもしれない。気長に待ちますよ」
「久遠警部」
志童の声がひと際エントランスに響いた。
「貴方の正体を教えてもらえますか?」
「私の?まぁいいでしょう」
久遠警部はくすりと笑う。
「私はね、志童さん。人間にも妖にもなれなかった者ですよ。今はそうとだけ言っておきましょう」
そう言うと、志童と琉の脇を通り過ぎて久遠警部と祇園寺刑事は帰っていった。
「琉、さっきのどういう意味だ?」
「おそらく彼は半妖なのでしょう」
「半妖?」
「えぇ、妖と人間の間に生まれた者・・・と、まぁ私もそれくらいしかわかりません」
「ふーん・・・・」
「さて、志童様帰りましょうか」
「そうだな」
玄関を出て最後にもう一度飯野家の屋敷を振り返った志童の目には、来た時に感じた華やかさはなく哀しみの色に染まって見えた。
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