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 銀座の真ん中にひっそりと佇むビル。  妖怪相談所の1階。  志童はだらしなくソファーに寝ころび、腹の上に乗せたルドを指先でからかっている。  突如相談所のドアが開き、尊が顔を出したのは飯野家のパーティーからちょうど1週間が経った時だった。 「よう志童」  そう言って尊はアメリカ土産をテーブルに置いた。  自由の女神が描かれたパッケージのウエハスチョコ、スモークサーモン、ビーフジャーキー。 「尊様、珈琲でよろしいですか?」 「あぁ、琉、いつも悪いな」  志童は寝転がったままルドを顔の上に乗せた。 「志童、志童ってばよ!」 「尊ぉ~、だめだ。志童は不貞腐れてんだよぉ」  志童の顔の上で、ルドが言った。 「はぁ?なんで?」 「なんかねぇ、尊の代わりに行ったパーテーってのが、人が死んだりして大変だったんだって。でも、解決したのは底に来た刑事と琉で、志童は何の役にもたってなかったって、雲外ばぁちゃんが言ってたけどね」  尊は苦笑いした。 「そうかぁ~、まぁ胡散臭いパーティーだとは思ったけどまさか殺人があったかぁ」 「はぁ?尊てめぇ!」  志童が勢いよく起き上った拍子に、ルドがソファーの上を転がった。 「胡散臭いってなんだよ!殺人が起こると知ってて俺を行かせたのか!」 「まさか!」  尊はどうどうと言わんばかりに、両手の掌を志童に向けた。 「希世乃さんが亡くなってたのは知ってたからね。死人の誕生日なんて変だなって思った程度だよ。人が死ぬなんてもちろん知らなかったさ」 「本当だろうなぁ・・・」 「本当だよ」  ちょうど珈琲を持ってきた琉が尊に珈琲を出した後で、事の顛末を伝えた。 「へぇ~、でも日本の警察にそんな課が存在するなんて驚いたな。それも半妖がそこを仕切ってる。なかなかおもしろいな」 「全然面白くねぇよ。あの久遠って奴、絶対俺を馬鹿にしてんだ!」 「まぁあながち間違ってもいないんだから、いいじゃないか」 「いや・・・間違ってるだろ・・・」 「で?庄吾さんは来たの?それって慶ちゃんにってことだろ?」  志童は無言で首を横に振った。 「そうか・・・ニューヨークで建設するホテルも庄吾さんに頼みたかったけど、その様子じゃ仕事は難しいかもしれないな・・・・・」  そう言った尊は、どことなく哀し気だった。 「あーっ!みこっちゃんだぁ~!」  降りてきた慶覚が声を上げて尊に飛びついた。 「慶ちゃん久しぶり」 「ニューヨークはどうだった?」 「まぁ、仕事だからね・・・ホテルから夜景ぐらいは楽しめたよ」 「そっか!ねぇ、今日は時間あるの?」 「うん。今日はこの後開けてあるよ」 「よし!じゃぁ善ちゃんも呼んでぱーっと飲もう!」 「おっいいねぇ」 「慶覚っ、てめぇ何を勝手にっ」 「あ、志童ちゃん、いいわよ、嫌なら志童ちゃんは寝てても」 「別に嫌だとは言ってねぇーっ」 「そう。あ、私皆にも言ってくるねー。スケに料理も頼まなくちゃ!あ、志童ちゃんは善ちゃんへの連絡よろしく」  そう言うなり慶覚は慌ただしく出ていった。 「まったく・・・騒がしい・・・」  そう言った志童の脇で尊はクスリと笑った。 「俺は好きだけどな。ここに来るとなんか落ち着くよ」 「そうか?煩いだけだぞ?」 「まぁ賑やかではあるけどさ。だけど考えてもみろよ。ここは___」  そう言って尊は相談所を見渡した。 「お前が作ったんだよ。お前がいるからみんなが集まった。そして仲間になった。だろ?暖かいよな・・・ここは。それって、やっぱりお前の力なんだと俺は思うぜ」  そう言うと尊は口の端で小さく笑った。 「ま・・・まぁな・・・・」 「あ~、志童が照れてるぅ~」  膝の上で志童を見上げてからかうルドの顔に、志童はクッションを押し付けた。 「俺・・・、ここでみんなと過ごしきて妖だって何も変わらなぇって、そう思ってたんだ。だから、今回なんかショックだったんだ・・・・。あんな風に人を喰っちまう奴もいるんだって・・・・・」  ふっと尊が笑った。 「バカだな、志童。人間だって殺人を犯す奴なんてごまんといるだろうが。妖もそうだったってだけだ」 「・・・・・うん。そうだな・・・・」  切なげに笑みを零した志童を見て、琉は微笑んでいた。  その日、もう一人の親友善もやってきて、妖怪相談所は深夜までどんちゃん騒ぎだったことは言うまでもない。
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