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「祇園寺刑事はこの間肉吸いを封印した・・・・それは、ここにいる者たちにも脅威になるのでは?」 「なるほどな。確かに僕ならそれはできますな。ただ、僕かてむやみやたらに封印なんてせぇへんよ。まぁここにおる妖が人を喰ろうてしもたら・・・話は別でおますけどな」 「ここにいる奴らはそんなことしない。俺が保証する!」  志童は無意識に声の音が上がっていた。  祇園寺刑事は小さく笑い「さいですか」と答えただけだった。 「まぁまぁ主殿、そんなに熱くならずに。私たちは別に喧嘩を売りに来たわけではないのですよ。これだから知性のない者を相手にするのは疲れます」  そう言って鼻で笑った久遠警部の口調には、相変わらず志童を小馬鹿にしたような節がある。 「あのさぁ、お二人はとっても素敵な紳士だと思うよ?けどね、特にそっちの人!」  慶覚は人差し指を立てて、その指先を久遠警部に向けた。 「なんかさぁ、さっきから黙って聞いてりゃ志童ちゃんのことすっごい馬鹿だと思ってない?知性がないとかなんとかって・・・。えぇ、そうよ!志童ちゃんは馬鹿よ?知性なんてありゃしないわよ。だけどね、それを言っていいのは私たちだけなの!志童ちゃんの馬鹿っぷりも、ダメっぷりも、ヘタレっぷりも!言っていいのは私達だけなの!昨日今日、突然現れた半妖だか陰陽師だか知らないけど、志童ちゃんを馬鹿呼ばわりするのは、この私が許さないわ!」 ___きょ・・・慶覚・・・・お前・・・・  志童は胸の奥が(くすぐ)ったいような、なんとも言えない気持ちだった。  相変わらず、褒められてるのか貶されてるのか・・・救われてるのか捨てられてるのかわからない状況ではあるが、それでも嬉しかったのだ。 ___そうだ、久遠になんと言われようと関係ねぇ。俺が日々向き合ってるのは、こいつらなんだ・・・・慶覚、サンキュな。  志童は一気に気持ちが軽くなるのを感じていた。これまで自分でも気が付かないうちに随分と肩の力が入っていてたような気がした。 「これはこれは、慶覚さん」  久遠は相変わらず表情を一切崩さない。 「そう聞こえたのなら、失礼をいたしました。私は別にあなた方の主を憶測でそんな風に見ているわけではないのですよ。ただね・・・・」  久遠警部の顔から笑みが消える。 「私はねそれなりに長く生きてきた。人間に陶酔する妖。妖に陶酔すり人間。腐るほどみてきたんですよ。腐るほど見てきましたが、ハッピーエンドなんて見た事がないんですよ・・・・・私はね、ある意味貴方たち、そうここにいる妖の皆さんに警告しているのかもしれない。無能な主を信じているといつか貴方たちが馬鹿をみるということを・・・。貴方方も、それなりの年月を生きているのなら少しは学習した方がいい。あぁ、因みに・・・・」  そう言って久遠警部は琉をちらりと見た。 「今日こうして私がわざわざ足を運んだ理由の一つは、琉さんのスカウトなんですよ。彼は優秀だ。無能な主に仕えるのは勿体ないほどにね」  そう言った久遠警部の瞳の奥に、志童は仄暗い影を見た気がした。 「はっ」  志童は鼻で笑った。 「あんたこそ、馬鹿なの?」 「なに?」  決して表情を崩さない久遠警部の顔に苛立ちの色が浮かぶ。 「人間に陶酔する妖?妖に陶酔する人間を腐るほど見ただと?」 「えぇ、そうですよ」 「そこにてめぇはいたのかよ」 「は?何を?」 「どうせ、そこにてめぇは入ってねぇんだろうな」  久遠警部は眉を顰めて志童をねめつけた。  そんな久遠警部に志童は組んでいた足を組み替えると、ニヤリと人の悪い笑みを返した。
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